サイダーベリー-1
強い炭酸水みたいに、刺激的だ。
*
「あれだろ。馬鹿だろ、お前」
よく晴れた日の朝、学校にて。
頭上から降って来る声、床に倒れているアタシ。
確かにこの状況は馬鹿かも知れない。だってアタシは声の主に会えたのが嬉しくて、飛び付こうとしたのを避けられたから倒れているんだもの。
「クマノミが避けるからいけないんじゃん」
アタシは声の主、熊埜御堂一哉に云う。出来るだけ、悲しげに。
「避けるに決まってるだろ、タックルされそうになったら」
クマノミはガリ勉風な黒縁眼鏡を直すと、更にアタシに冷たい言葉を落とした。
「猪が突進して来たら、お前は避けないのか?」
「ウリ坊なら、受け止めるもん」
そう云って体を起こすアタシに、クマノミは云った。
「いや、お前は大人の猪だ」
よく晴れた日の朝。
アタシは好きな人から、猪と云われた。
*
アタシは高崎雫、16歳。高校生。友達はアタシの事をシズって呼ぶ。
好きなものはファンシーなもの。苺柄とか大好きで、ペットの犬のハウスも苺の形だ。
ちなみに、アタシは猪には似ていない。
背はわりと高いけど、胸は小さいしスレンダーな方だ。
そんなアタシがクマノミこと熊埜御堂一哉に出会ったのは、高校の入学式の日。
クラス名簿に載ってる珍しい名字が読めなくて、折角同じクラスなんだからと直接訊きに行った前向きなアタシに、クマノミは見事に冷たく返してくれた。
「くまのみどう、かずや、だ。二度と云わないぞ」
「は、はぁ。有難う―――えっと、クマノミ、くん」
冷たい物云いにびっくりして呆然としているアタシに、クマノミはふっと笑った。
「いきなり渾名で呼ぶなよ。不躾だな」
アタシはなんだか知らないけど、そう云って笑うクマノミに心奪われてしまったのだ。
自分でも訳解んない恋の仕方だと思う。
でも、しょうがない。感情をコントロール出来たら、この世の苦労なんて殆どなくなっちゃうくらい、人は感情に振り回されるものなんだから。
とにかく行動あるのみ。それから果敢にアプローチを始めてはや半年。