サイダーベリー-3
「は?当たり前だろ?暗いところは危ないんだから」
どうやらクマノミは一般的な意味で云ったらしい。アタシだから心配なんじゃない。
誰が居ても、例えば男の子が居たとしたって、きっとクマノミは同じ事を云ったんだろう。
「なら、駅まで一緒に行こ?クマノミ」
「ああ。僕は一応護身術の心得があるからな。お前一人くらいは守れる」
そう云って、クマノミはさっさと靴を履き替えに行ってしまう。
早くしろよ、なんて呼ばれると、付き合ってるみたいでなんか嬉しい。
「凄いね、クマノミ。護身術なんてやってんの?」
「ああ。犬を守りたいから」
「いぬ?」
そうだよ、と云ってクマノミはさっさと歩き出す。
アタシは小走りでクマノミを追う。
「小さい頃からずっと家には犬が居る。今は雑種の犬を飼ってるんだけどな、前の犬は―――」
クマノミは、ぽつんと言葉を落とした。
「毒食べて死んじゃったんだ。近所に困った人が居てね。ガラス撒いたり毒餌置いたりして」
「ええ―――酷い。アタシも犬飼ってるから、悲しいよ」
アタシは歩きながら泣けて来た。あのちっちゃくてふかふかで、アタシに尻尾を振る命が奪われるなんて、考えたくない。
「悲しかったよ。だから、強くなりたかった。強くなったら、なんか守れる気がしたんだ」
「直接は意味なくない?」
「ないよ。だけど、心の問題だ」
「そっか。でも解る気がする。アタシだってうちの犬を、ぎゅっと守ってあげたいもん」
アタシは鼻をすすって、涙を拭いた。声は震えてしまった。
「お前、泣いてんの?」
クマノミがびっくりした顔でアタシを見る。
「仕方ないじゃん。悲しいもん。クマノミと、そのワンちゃんが可哀相なんだもん」
もっともっと一緒に居たかったのにね―――アタシがそう云うと、クマノミは眼鏡をずらして涙を拭った。
なんだ。クマノミも泣いてるじゃん。
「止めろよ。悲しくなるだろ」
「ごめん」
アタシはゴシゴシと涙を拭いた。
うちの犬を抱っこしたくなった。大好きだよ、って云ってあげたくなった。
それでクマノミがやっぱり可哀相で、アタシはついクマノミの手を握った。
クマノミはそれを振り払わないでくれて、アタシ達は無言のまま夕暮れの中を駅まで歩いた。
手を繋ぐ影を見て、アタシは胸が痛くなってしまったけど。
「あのね、クマノミ。アタシ、クマノミが好きだよ」
駅に着いて、アタシは手を繋いだまま云う。