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サイダーベリー
【青春 恋愛小説】

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サイダーベリー-2

春から夏を過ぎてもう寒くなって来たのに、クマノミにとってのアタシはまだ猪に過ぎない。

それも仕方ないかも知れない。だってクマノミはイメージ通り勉強が出来るし真面目だ。

意外な事に運動もそれなりに出来たりする、云ってみれば万能人間。

まあ顔は何というかフツーだから、大層モテる訳ではないんだけど人気は割とある。

そんなクマノミに比べてアタシは凡庸、何でもフツー。

元気が取り柄なんて昔のドラマの主役みたいなタイプ。

クマノミに好かれる要素は、ない。多分。いや絶対ないに決まってる。

なんと云ってもアタシはタックルをかます猪なのだ。せめて可愛いウリ坊なら可能性があったのに、大人の猪なのだ。

もう諦めた方が良いのかも知れないと落ち込んで、元気だけが取り柄のアタシは唯一の取り柄を失う。

放課後の冷たい廊下にぽつんと座って、夕陽でオレンジに染まった生徒用昇降口を眺める。

きれい。ロマンチック。それなのに、寂しい景色。

クマノミへの気持ちにさよならするには、良いシチュエーションだ。なんか青春だ。よし、もう決めよう。諦めよう。

アタシは決意を込めて、呟く。

「ばいばい、クマノミ」
「おう。また明日な」
「ぎゃあー!!」

タイミングよく返事が返って来て、アタシは思わず絶叫した。
ちなみにクマノミは死ぬ程嫌そうな顔をしてる。

「何なんだよ。返事しただけだろ?」
「いやあの、まあそうなんだけど」
「ところで、何でこんなとこでぼうっとしてんだ?お前は」

そんな事聞かれても。アタシは少し考えてから、クマノミに云ってやる。

「あんたが朝アタシを猪なんて云うから、落ち込んでたの」
「本当か?」

クマノミは意外にも、真面目に返事をした。

「本当だよ。悲しいよ猪なんて云われたら」
「そっか。ごめん、謝る。悪かったな高崎」
「素直だね、クマノミ」
「傷付けたなら、僕が悪いだろ。もう云わない。ごめんな」

そうしてクマノミはぺこん、とアタシに頭を下げた。

アタシはびっくりして、口も利けない。

どうしてクマノミはこんなに素直に人に謝れるんだろう?

「それよか高崎、もう暗くなるぞ。秋の日は釣瓶落としって云うだろ」
「はい?鶴瓶さんを何処に落とすの?」

アタシの返事にクマノミは眉を歪めて、溜め息を吐いた。なんか、間違ってたらしい。

「家に帰って、家の中で一番勉強が得意な奴に訊け。とにかく、暗くなるから早く帰れよ」
「なあに、一応心配してくれるの?」

アタシはニヤニヤしながら鞄を持って立ち上がった。

クマノミのこと、やっぱ好きだ。一緒に居るとこんなに楽しいんだもん。


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