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「風雲鬼」
【ファンタジー 恋愛小説】

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「風雲鬼」序章-1

<序章>

『盛者、必衰の理をあらはす』とは真に的を射たもので、1528年現在、かつて栄華を誇った幕府は衰退の一途を辿っている。
将軍は傘下の大名らを都付近に集め、なんとか微かな威光と治安を保とうとする有り様。
当然、都以外の国々の治安は悪化していく一方で、特に、孤児や流浪人からなる盗賊団が急激に増加していることが人々の頭を悩ませる種になっていた。
それは都も例外ではなく、各地方で力をつけた盗賊共はこぞって都に集まり、共謀して襲撃を企てていた。
彼らは、自分達のような境遇の者を見捨てた幕府に復讐しようとしていたのである。
その噂はたちまち都中に広がり、人々は混乱と恐怖に陥れられた。
しかし他国に出たところで治安面にさほど変化は無く、人々は只、怯えて毎日を過ごしていた。


--都 郊外--

森林地帯のこの辺りは盗賊の住処が至る所にある、と言われていて、一般の人々が近寄ることはまず無い。
事実、七つもの盗賊団がこの辺りに潜んでいて、この冬を越えたら都になだれ込もうという構えでいたのである。
しかしその企みは、ある一人の男によって打ち砕かれることになった。


「ぐぅ…、貴様ァ…!」

まだ雪の残る森の中、裂けた腹を押さえてもがき苦しむ男。
その腹と口からは、大量の出血が見られる。

これが七つあった盗賊団の、最後の生き残り。
光を失いかけたその眼の先には、自分を見下す男の姿があった。
いや、"男"と云うには余りに若過ぎる。"少年"と呼んだ方が適しているだろう。
とはいえ、その恐ろしい程にギラついた眼光からは、鬼や物の怪を思わせる不気味な迫力を感じる。

「鬼童子ィ…!ひとつ、聞かせろぉ…!」

地に伏した男が、口から血を撒き散らしながら叫んだ。
対峙する少年は、眉ひとつ動かさずにその光景を眺めている。
ブッ、と血を吐き捨て、男は残りの力を振り絞って息を吸い込んだ。

「なぜだ…!なぜ俺達を斬った…!?
なぜ俺達の夢を……!」

言い終えぬ内に男は多量の血を吐き、地に頭を落とした。
さっきまで荒げていた呼吸も、今はもはや虫の息だ。

「簡単なこと…。幕府に恨みを持つお前らと同じ様に、俺も盗賊に恨みがある……それだけだ。」

息も絶え絶えの盗賊はもう言葉もない。
今言ったことも、もしかしたら聞こえていないかもしれない。

そして間もなく、盗賊の心臓はゆるりと止まった。

このときをもって、都に仇なさんとした盗賊共は全て消えた。
想いを成さぬ内に、寒空の下、冷たい土の上で"鬼童子"と呼ばれた少年の手によって散っていったのである。


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