愛する人。-4
「…失礼しました。」
『仕事終わったら、会社で待ってて…』
私はドアを閉めながら、要に言われた事を思い出した。
「…何だろう」
不思議に思いながらも、私は仕事を再開した。
今日は残業なんか出来ないから。
パソコン画面に、軽快に文字を打ち込んでいく。
「先輩、お昼どうします?」
「あ-…悪いけど、あたしの適当に頼んでおいて。」
「わかりました-。じゃあグリーンカレー買ってきますね」
「ありがとう」
お昼休憩なんて、貰ってる暇じゃない。
「よし。あとは…」
―…
「では、お先失礼します。」
副社長室から若い秘書、神田さんが出てきた。
「あ、もうそんな時間?」
私は時計を横目で確認すると、パソコンを叩くスピードを速めた。
「稲守先輩、何か手伝うことありますか?」
と、山崎くんが私に話しかける。
「山崎くん。ううん、大丈夫。今日はこれのタイプで終わりだから。」
「そうですか。じゃあお先失礼します。」
山崎くんはペコッとお辞儀をして、荷物を持った。
「うん。お疲れ様」
私は山崎くんが部屋から出て行くのを見送ると、再びパソコンに意識を戻す。
「…よし。保存して…終わったぁ!!」
私は大きく伸びをして、立ち上がった。
すると、副社長室が開き、彼が顔を出す。
「あ、相馬さん。お疲れ様です。」
「お疲れ。…みんな、帰ったか?」
「ええ、私が最後の筈ですが。」
「そうか…。まぁ、中入れよ。」
「?はい」
私は招き入れられるがまま、副社長室に入った。
「…何ですか?」
彼は鍵を閉める。
「鍵…?」
「千晴…」
「え…んんッ」
要は私をドアに押し付け、唇をうばった。
「ちょ…ッ」
要から顔を背けようとしても、彼は舌を入れてくる。
「ん…ッ」
くぐもった声しか出ない。
彼からはコーヒーの苦い味がした。
「はぁッ…はぁッ」
唇が離れると、私は肩で息をするしかうまく呼吸が出来なかった。
「も…いきなり何?」
彼を見ると、何だか切ないような悲しいような顔をしていた。
どう言葉をかけようか迷っていると、彼の指が私の首筋にかけられる。
「…やッ」
背筋がゾクッとした。
だって、彼は指を首に這わせると、そこにキスを落とすのが癖だから。先が予想出来て、身体がビクつく。その先の行為を渇望するように…。
「あッ…」
ほら、やっぱり。
「…ってちょっと!!」
私は流されそうになっていた事を自覚し、彼の胸を力いっぱい押した。
「駄目よ、ここじゃ。会社だし…」
彼はいつもなら嫌だと言えば止めてくれる。
でも、今日は…
「無理…」
と、行為を再開した。
「きゃ…ッ」
彼の手が私のワイシャツに入る。
器用にブラのホックを外し、胸元に唇を落とした。
(珍しいこともあるものね…)
彼の雰囲気から何かあると思い、私は抵抗を止めた。
「…ごめん、抱かせて」
彼は弱々しい声でそう言う。
「…いいよ」
私はそれだけ言うと、彼との行為にだけ集中することにした。