十六の春〜サクラフブキ-1
抜けるような青空の下、駅へと向かう桜並木の道のりで、真理(まり)はずっと道端に植えてある桜の木を見ていた。
『みんな、いい人ばかりだった』
「そうだろ」
『いい場所もたくさんあった』
「だろ?」
俺は、足元の違和感に気付いて歩を止めた。見ると、靴紐の結びが片方解けている。
「真理、ちょっと待ってくれ」
そう言って俺は靴紐を結び始めた。
真理と俺は、中二の終わりから付き合いだした。告白したのは俺だった。
真理はどちらかというと大人しい子だった。だけど、誰にでも優しく接する態度から、クラス中で人気者だった。
俺は真理の返事を待ったが、いつまで待っても――実際には数秒なのだが、真理の返事はなかった。
「真理?」
顔を上げると、真理は数メートル先で桜を見上げていた。ようやく気付いたのか、俺の方を見る。
サァッ………
暖かな風が吹く。それは、桜の木々から花びらを散らせていった。
『凄い……桜吹雪……』
桜吹雪が、俺と真理の間を通り過ぎる。
桜に包まれた真理は、馬鹿らしい表現しか出来ないが、綺麗だった。
春は出会いの季節だけど、別れの季節でもある。
何故。
何故俺と真理は離れなくてはならないんだ?
『勇(ゆう)、早く行こう?』
見上げた真理の顔は普段と変わらない。
真理も、わかっているんだ。
「ああ、悪い」
俺は軽く地面を蹴って真理に追いついた。