十六の春〜サクラフブキ-2
真理の母親は、元々病弱だった。都会の環境に馴染めなかったのだろうか。ここ数年で急激に持病の喘息(ぜんそく)が悪化した。
真理の父親は、真理が中学を卒業したことを機に地方の実家に帰ることを決めたらしい。
仕方がない――大人の事情ってやつなんだ。
何度も考えた。真理と一緒に暮らそうとか、真理を家に置いてもらうとか。
だけど、真理は物じゃない。いくら俺が無い頭をひねったって、真理が行くと言うのなら、それは止められないんだ。
ホームへと向かってくる新幹線が真理の前で止まる。まだ早朝だからだろう。サラリーマン達しか見受けられない。
『じゃ、行くね』
「ああ」
『メール…するから』
「待ってる」
『電話もする…』
「それは俺がするよ」
言葉が、震えていた。
『それから、それからっ……』
真理の瞳には涙が溜っていた。だけど、それに気付いてはいけない。
笑って、別れようね?
あの時の言葉が甦る。
『それからっ……!』
「真理、もう時間だよ」
『だって!だってぇっ!おかしいよ…おかしい……』
「しょうがないんだ。一生別れる訳じゃないだろ?」
努めて冷静に振る舞う。そうしないと、俺自身も崩れてしまいそうだったから。
『勇……』
「なんだ?」
『どこかに、行こう……パパもママも知らない、どこかに』
「真理……!」
『私、必死に働くから。朝も、夜も…だからっ!だから勇、連れていってよぉ……』
何も言えない。言ってはいけない。俺は言葉の代わりに真理を抱き締めた。