COMPLEX -act.2(前)--1
せめて、せめてアイツの半分でも愛想があれば……。─────by 麻生 創
眉間に皺を寄せているのが楽しいかと問われれば、そんなことはない。
逆に、楽しくないから眉間に皺を寄せているのかと問われれば、そんなわけでもない。
つまり、この目付きと愛想の悪さは生まれつきなわけで。今更どうこうできるもんじゃない。
だけど、齢16にして、生まれて初めてこれらを悩んでいる。今まで気にもしてなかったのに、だ。
何故か?それは……
好きな女の子が俺を怖がっているからだ。
俺、麻生創(アソウ・ハジメ)は、身長普通、体重体格普通、成績も運動神経も普通の、いわゆる平凡な男子高校生だ。
平凡な高校生らしく、恋もしていれば悩みもある。
そう、悩みも。
その悩みが今最大の問題なのだ。
「そんな悩むことかよぉ」
昼休み、俺の隣でスナック菓子をパリパリ食べながら、ひと事のように言ったのは橘京介(タチバナ・キョウスケ)。
地毛だという茶髪に女顔、成績も運動神経も学年トップのコイツは、憎らしいほどに愛想がいい。
あーあー、どうせお前には分かんねぇだろうよ。
俺は空の弁当を包み直しながら、橘を軽く睨みつけた。
「んんっ。その顔その顔、コワァイ」
今度はパックジュースのストローに口をつけて、橘が言う。
分かってる。俺はつり目で目付きが悪い。
こちらは冗談半分で軽く睨んだつもりでも、相手には『恐い人』な印象を与えることがしばしばだ。
小学生の時には、見ただけで女の子が泣き出したこともある。
頭をかすめた嫌な思い出に、俺は諦めを含んだため息を一つつき、窓の外に目をやった。
花の季節の終わった桜が青々とした葉を繁らせて、5月間近の爽やかな風に吹かれて揺れている。
「あ、実奈と鈴だ」
空をぼんやり見ていた俺は、橘の言葉に我に返った。
「ど、どこ?」
「そこ。桜の下」
橘の指差す方を見ると、桜の木の下に女子生徒が二人、座って弁当を広げていた。
二人ともクラスメイトだ。一人は高崎鈴花という気の強い女子。もう一人は佐伯実奈───俺が今、一番話をしたい女子。
二人はキャアキャアと談笑しながら弁当を食べている。
高崎、いいなぁ。
ぼんやり見ながら、俺は高崎に嫉妬していた。
佐伯は俺とは喋ってくれない。極度の引っ込みじあんだと聞いたが、理由はそれだけではないはずだ。
俺が話しかけると挙動不審になる。うつ向き加減でオドオドしながら小さい声で喋り、決して目を合わせようとしない。
何もした覚えはないけど、思い当たる理由は一つだけ。俺を怖がってるんじゃないかと思う。
だよな、俺、目付き恐いし。
だけど、好きなんだよ。普通に喋りたい。
俺が悪いんだよな。
せめて、橘の半分でも愛想があれば、怖がられないで済むかもしれないのに……。
佐伯は橘とは普通に喋る。橘は幼稚園に入る前からの幼馴染みだからだと言うが、橘の底抜けに明るく人懐っこい性格のせいもあるはずだ。誰にでも話しかけ、仲良くなる。絶対口には出さないけど、尊敬せずにはいられない性格だ。
俺は無意識に隣にいる橘に視線を移した。満面の笑みを浮かべている。