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ツバメ
【大人 恋愛小説】

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ツバメC-2

『千川くん!』
「やあ」
『ごめん、着替えるの手間取って』
本当は化粧直しに手間取りました。
「いいよ、乗って」
またニコッと笑うと助手席のドアを開けてくれた。
気が利くなあ。
『車で行くの?』
まさか飲酒運転?
「はは、実は僕、飲めないんだ」
『え?』
「だから大丈夫だよ」
『そう?でもあたしだけ飲んじゃあ悪いよね』
「そんなの気にしちゃだめだよ」
また千川くんはニコッと微笑む。
本当やばいな、この笑顔。
『うん、じゃあ気にしない』
「うん!」
やばい、すごく理想的。
あたしの性格もわかってくれてる。

やっぱり出会ったときからビビってくるものがあったからなぁ。
なんて、助手席で妄想しているわけで。
二十分ほど車内で何気ない会話を楽しむと、おしゃれなバーに到着。
『すごいね』
「そう?」
『こんなとこ初めてだよ、いつも小汚ない居酒屋だし』
誰かのせいで。
「はは、豪快な綾瀬さんらしい」
『へ?豪快?』
あたしってそういうふうに見えるの?
まあ繊細じゃないけど。
「うん」
カウンターに座る。
「綾瀬さん、何にする?」
『え、えっと、じゃあ軽いのから…』
「マスター、いつものと、彼女に似合う軽めの」
バーテンダーのおじさんは頷くと、カチャカチャと準備を始め、シャカシャカと腕を振った。
すいません、バーの定義なんてよくわかんないんで擬音で。


『わあ』
できたカクテルは、桜色でキラキラしていた。
おじさんは名前をおしえてくれたけど、すぐに忘れてしまいました。
ごめん、おじさん。
そっとできるだけ上品にそれを口にする。
『おいし』
これは心からの感想。
「よかった」
千川くんは優しく微笑む。
ちなみに千川くんの“いつもの”は烏龍茶だった。
『よくくるの?』
「うん、実はマスター、僕の高校の恩師なんだ」
『え?』
「定年で辞めてすぐに、このバー始めてね」
『定年?すごく若く見えるけどねー』
おじさんはそれを聞いて笑う。
「うん。それで、なにか相談があると、飲めないくせに来るんだ」
『へぇ』
「マスターったら、先生って呼ばせてくれないんだよ。バーではマスターって呼ばないと怒られちゃう」
『あはは』

楽しい時間がしばらく進んだころ、突然、千川くんが思い詰めた顔で話し始めた。
「……綾瀬さん」
『?』
「……きみがこの間話してた人」
『え?』
一瞬、思い当たる人がいなかった。


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