僕とお姉様〜急なお別れ〜-4
「あのさ、山田って…、…あたしね…」
ごにょごにょとまとまらない文章を呟いている。
僕がもっと大人だったら…、昼間の事を忘れられないならせめて気にしていないフリができればな。
「何?」
急かすように再び問いかけた。
「……」
「話があるならはっきり言―」
「山田の好きな子ってどんな子!?」
言われて、ようやく振り返った。
「…聞いてどうすんの」
「別に、どうもしない。うまくいってんのかなって…」
「だから聞いてどうすんだよ」
「聞くくらいいいじゃん」
「だから何で!?」
「あたしもできた」
「何が」
「…好きな人」
「…」
『すきなひと』
次のセリフが浮かばない。真剣な顔のお姉様、嘘ではなさそうだ。
あ、そう。好きな男いるんだ。
なんだよそれ。
足元から何かが這い上がってくるような妙な感覚を覚えた。つま先から黒に染まっていくような、うまく表現できないけど、ただ目の前のこの人が憎らしくてたまらない。
人を偽物の彼氏にして年齢職業全てごまかさせといて本命は別にいるって馬鹿にしすぎじゃないの?
僕はただの都合のいい同居人じゃない。
そんなものになるくらいならいっそ―
「山田、あたし」
聞きたくない。
「家出る事になったから!」
「…え?」
保留はあっさり覆される。こんな理由で決心するなるなんて思わなかった。
「何…、出るって?」
「一身上の都合」
「意味分かんない。話が急すぎだし、大体出てどこ行くの?そんな簡単に決めれる事じゃないでしょ」
簡単なわけないだろ、誰のせいだよ。
机の引き出しから前に貰った二千円を出した。好きな人ができたら二千円、振られたら返金。
結局何の意味もない賭だった。
「お幸せに」
心にもないセリフと共にそれを差し出した。
これがお姉様と交わした最後の会話。
どうせならもっとマシな別れ方が良かったな。
ずっとこの部屋で一緒に暮らしていたかったから、離れ離れになる未来なんて予想できなかった。
頭に浮かびすらしなかったよ。
さようなら、僕のお姉様。