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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩みFINAL 〜卒業・それぞれの旅立ち〜-2

「あら、お帰りなさい」
 通販カタログのページをめくりながら、彩子は言う。
「ただいま……って、何してるの?」
「見りゃ分かるでしょ。カタログ見てるのよ」
「いや、そうじゃなくて……」
 美弥はじっとりした目付きで母を見た。
「そんな大量に見てどうするのかって、私は聞いてるのよ」
 彩子の前には六冊ばかり、カタログが積み上げられている。
 表紙を見る限りでは全部が違うメーカーで、中身も多岐に渡っていた。
 そう言われた彩子は、肩をすくめる。
「あ、ちょうどいいわ。あんたに対するお祝いだから、あんたの意見を聞かないとね」
 そう言われた美弥は、目を丸くした。
「はい?」
「就職祝いよ。このカタログは、あくまで参考」
 彩子はカタログを一冊、ばたばたと振って見せる。
「……」
 美弥は彩子に近付き、カタログを何冊か手に取ってみた。
 家具のカタログ。
 下着のカタログ。
 ファッションのカタログ。
 化粧品のカタログ。
「……いったい何をくれる気だった訳?」
 バラエティ豊かなカタログを見て、美弥は呆れた声を出す。
「だから参考だって言ってるでしょ。別に、この中からプレゼントするなんて言ってないわ」
 彩子の声に、美弥は肩をすくめた。
「予算は?」
 彩子の近くに陣取ると、美弥はカタログを手に取る。
「……円くらいね」
「ふむ……」
 告げられた予算内で、美弥はクローゼットと下着の組み合わせを考え出した。
「それでいいの?」
 そう言う彩子の顔が、緩んでいる。
 それに何か引っ掛かる物を感じたが、美弥は頷いた。
「それじゃ、これを送ってあげるわね」
 
 
 それから数日後。
 卒業式間近のある日、甘味処にて美弥は瀬里奈とお喋りしていた。
「みんなして、何か企んでる」
 ぶすっとした顔で、美弥は言う。
 手元には、カフェモカの入ったカップと林檎のコンポートとバニラアイスのお皿。
 時間的にも内容的にも、酔っ払うには無理がある。
 つまりはそれだけ真面目なのだという事だが、向かいの席に座る瀬里奈は笑いを堪えるので精一杯だった。
 確かに龍之介はある事を企んでいるし、それが暴露される日はもうすぐである。
 しかしこの期に及んでまだ箝口令を敷く龍之介だから、黙っていてやろうと瀬里奈は思った。
「ふんふん。それじゃあ誰がどんな事を企んでるのか知ってて、何かの尻尾を掴んでる訳ね?」
 一息にそれだけ言うと、瀬里奈はブルーベリーティーの入ったカップを傾ける。
「そうでなきゃ、人様に疑いをかける訳ないものねぇ?」
 今度は、洋梨のシブーストを一口。
「……何か知ってるでしょ?」
 じっとりした目付きで、美弥は瀬里奈を見た。
「だから何を知ってると思うのよ?」
 一口分程度に切った林檎のコンポートにフォークを突き立ててバニラアイスを掬い取り、美弥は唸り声を上げる。
 確たる証拠がないからこそ、疑念を周囲にぶつけているのだ。
「あたしが知ってる事と言えば、そうねぇ……」
 瀬里奈は紅茶を啜り、美弥を見る。
 一度は彼氏を寝取ろうとしたというのに友達になってくれた、何とも奇特な女の子を。
「もうすぐ卒業式、って事くらいかしらね」
 美弥は、要領を得ない顔をした。
 だが次の瞬間には問いをはぐらかされたと感じたのか、その顔が曇る。


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