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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩みFINAL 〜卒業・それぞれの旅立ち〜-3

「瀬〜里〜奈〜……」
 恨みがましい美弥の声に、瀬里奈は笑った。
 龍之介から箝口令を出されている以上、この一言が自分に漏らせる精一杯である。
「それよりあんた、住む場所はどうするの?」
 そう言われた美弥は、表情を曇らせた。
 自宅から通うか会社近くのアパートを借りるか、美弥は迷っている。
 どちらにもメリットとデメリットがあるため、一概には決められないのだ。
「う〜ん……しばらくの間は、家から通おうかなぁ」
 あからさまな話題転換だったが、美弥は敢えて乗る。
 瀬里奈がとぼけ通す気なら、自分には追求しきるテクニックがないからだ。
「そう言う瀬里奈は、どうする気?確か……進学よね」
 美弥の質問に、瀬里奈は笑みを漏らす。
「家からじゃあ、ちょっと不便なのよね。あの大学」
 にやにやした口調から察するに、どうやら企みがうまくいったらしい。
「で、ちょっと広めのアパート借りる事にしたんだけれど……広過ぎるから、ルームメイトが欲しいのよ」
 何となぁく、美弥はその続きが予想できた。
「そうしたら、紘平も家を借り換えるって話じゃない。これはもう、天の啓示か神様の教唆よね」
 やっぱり。
「あれ?それじゃ、高遠君は……」
「どういう訳か、同じ大学に受かってるのよ」
 瀬里奈のにやにや笑いが強くなる。
「ま〜…………」
 美弥は思わず笑ってしまった。
 知り合いが仲睦まじくしているのは、幸せな事である。
「そういえば、輝里ちゃんと高由君は……」
 宙に浮いた美弥の言葉に、瀬里奈は肩をすくめた。
「高由君は、体育大。輝里は、専門学校」
 そして、そう答える。
 秋葉はもう少しバスケットボールと付き合いたいからと、体育大学へ進学。
 輝里はそんな秋葉を心身共にサポートしたいからと、栄養士の資格取得のために専門学校へ。
 それぞれがそれぞれの道(レール)を行くための準備は、もう整っていた。
 高校卒業と共に分かたれるその道がまた交わる事を、美弥は願ってやまない。
 そして、結ばれた友情が途切れない事も。
「……あ〜」
 いきなり出された変な声に、瀬里奈は目をぱちくりさせた。
「頼むから、教えて!」
「だから何を?」
 すっとぼける瀬里奈に対し、美弥はまた唸る。
「そんなに何か知りたいのなら、高崎君ご当人に尋ねてみなさいよ」
「聞けないから、他の人に聞いてるんじゃないのよぉ……」
 ぶうたれる美弥に、瀬里奈は笑いかけた。
「そんじゃ、秘密にしておきたいんでしょ?せっかくびっくりさせてくれるっていうんだから、楽しみにしときなさいよ」
 言われた美弥は、唇を尖らせる。
「心臓に悪いドッキリなんてごめんよ」
 
 
 そして、いよいよ卒業式。
 特に騒ぎが起きる事もなく、式そのものはしめやかに執り行われた。
 式場だった体育館から教室に戻った美弥は、ぐるりと首を巡らせる。
 後は鞄と卒業証書を持って学校から出るだけだと思うと、寂しい気がした。
「やれやれ……お疲れ」
 瀬里奈の声に、美弥は振り向く。
 美しく整ったその顔には、意味ありげな笑みが張り付いていた。
「さぁて、いよいよ来たわねぇ」
「な、何が?」
 何となく引きながら美弥が尋ねると、瀬里奈の笑いが強くなる。
「ようやく、高崎君の企みが明らかになるのよ」
「やっぱり何か知ってたのねぇ!?」
 即座に反応されると、瀬里奈はぱちりとウインクした。
「当たり前じゃな〜い。あんた以外の友達家族を巻き込んで、一年かけて秘密にしてきた計画(プロジェクト)なのよ?」
 言われた美弥は、唖然とする。
 自分を取り巻く人間が当人に何も知らせず、水面下で得体の知れない計画を進めていたのだ。
「ま、そーいう訳で表に迎えがいるから。いってらっしゃい」
 
 
 感慨もへったくれもなく校舎を追い出された美弥は、『迎え』を見て驚いた。
 白い乗用車にもたれて、竜彦が待っていたのである。


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