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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩みFINAL 〜卒業・それぞれの旅立ち〜-11

「龍之介さんと共に過ごした時は、私にとってとても幸福なものでした」
 父と夫を交互に見遣り、花嫁は喋り出した。
「だからこそ、付き合い始めたあの頃の言葉を繰り返す事ができます」
 美弥は目を伏せる。
「龍之介が私を必要としてくれる限り、私は龍之介を捨てたりしない。傍にいる」
 伏せた目を上げ、新婦は宣言した。
「だけど今日この日、私は違う誓いを立てます。皆さんは、この言葉の証人になって下さい」
 そして、花婿の方へ向き直る。
「あなたの傍にいる私は、とても幸福です。だから……死が二人を分かつまで、私はあなたと添い遂げたい」
 ――会場は、歓喜に包まれた。
 
 
 様々な人達がスピーチを終え、会場では食事が始まった。
 立食形式のバイキングという事で、体格に見合った食欲の秋葉は大喜びしていたりする。
 本来の仕事はフレンチレストランなだけに、出される料理はどれも絶品だった。
「んんん……!」
「ん?」
「んまっ!」
 料理を一口頬張った花嫁は、それだけ言うと幸せそうに蕩けた表情で、小皿へ取り分けたご馳走を片付け始める。
 そんな様子をしばらく眺めた龍之介は、そっと隣の様子を伺った。
「初めまして。待山佳奈子と申します」
 弟の結婚式当日に、兄は恋人を両親へ紹介しているのである。
 佳奈子は初めて母親の巴へお目にかかったのだが……あっぱれな事に、にこやかな表情が全く崩れていない。
 初めて巴を見た人は、彼女の実年齢やら二人の子持ちだという事実を、どうにも信じてくれないのだ。
 まあ……ただ単に、こんな場でかつがれる事はないだろうと理解しているだけかも知れない。
「本日は式場のスタッフとしてお会いする事となりましたが、後日改めて挨拶に伺わせていただきます」
 そう言って頭を下げる佳奈子を、巴は上から下までじっくり眺める。
 ややあって、巴はにっこり笑った。
「竜ちゃん、やるじゃな〜い!」
 そう言って、竜彦の事を肘でつつく。
「ま、早めに顔見せしといた方がいいだろうからな」
 面映ゆいのか頬をぽりぽり掻きながら、竜彦は言った。
「そういう訳だから、俺はもう少ししたら家を出るよ。元から出戻りだし、カツカツしないで暮らしていけるだけの給料も貯金もあるし」
 竜彦は、横にいる佳奈子を盗み見る。
「男だったらやっぱり、ちゃんとした形をあげたいしな」
「じゃ、兄さん……」
 龍之介の顔に、嬉しそうな寂しそうな表情がよぎった。
 そんな弟の目をしっかり見据えながら、竜彦はきっぱりと頷く。
「ああ。また家を出る」
「兄さん……」
 弟の情けない顔を見て、兄は破顔した。
「そんな顔するな。お前にはもう、美弥ちゃんがいるじゃないか。守る立場になった男はな……強いぞ」
 龍之介は一瞬だけ眉を歪めたが、すぐに頷く。
「兄さんもね」
「言うようになったなぁ、えぇ?」
 嬉しそうに笑うと、竜彦は龍之介の肩を軽く叩いた。
「あ、そうだ。龍之介」
「ん?」
 いきなり呼ばれた龍之介は、怪訝な顔をする。
「結婚するのはお前が先だが、孫の顔を見せるのは俺が先だからな」
「へっ?」
 脇で聞いていた三人を含め、その場にいた四人が硬直した。
「ま、そういう事だ」
 竜彦は、にやにや笑っている。


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