ツバメB-3
ステージの上では先程見たようなカラフルなメイド服の女の子が歌っている。
ステージの下では曲に合わせて踊る男たち。
“一般人”が見ると軽くカルチャーショックを受けそうな光景だ。
『……はは』
椿芽もさすがに唖然として固まってしまった。
しかし燕は、突然そのステージに向かって走り出した。
重いコンポを抱えながら。
『燕!?どうしたの!?』
慌てて追いかける。
まさか、燕も同類だったのか?
「見つけた!」
『えぇっ!?』
やはりそうだったのか。燕は実は本当はこのアイドル目当てで……
「よう!福岡!」
『……は?』
前で突然止まった燕は、集団の最後尾の一人に声をかけた。
福岡と。
『……?』
最初は意味がわからなかった。
燕が声をかけた男は福岡くんとは似ても似つかなかった。
眼鏡をかけ、変な柄のTシャツをズボンに入れている。
背中に見える迷彩のリュックにはアニメキャラであろうキーホルダーがたくさんついている。
「福岡は相変わらずだな、今なにやってんの?」
事情を知らない燕は笑顔で話しかける。
「や…やあ…鳥羽…」
『……』
挙動不審な福岡くんを、あたしは切ない目で見ています。
未だに状況がよく飲み込めません。
「福岡オタク歴長いもんな。まさかまだやってるとはね」
「…い、いいじゃん別に…鳥羽は…相変わらず…モテてるんだろ…?」
どうやら福岡くんはあたしに気付いていないみたい。
職場では今みたいな派手な格好してないから。
それにしても、まさかこのバカ、あたしと福岡くんを会わせたくてデートに誘ったんじゃないよね?
それは余りに計画的過ぎるわ。
やっぱり、この間の不敵な笑みにはこんな裏があったのか。
先程までの幸せな気分はどこへやら。
返してください燕さん。あの幸せな数時間を。
「椿芽ちゃん」
『へ?』
「え…つ…椿芽…って…」
しょうがない、ここは腹を決めて挨拶するか。
『あ…こんにちは、福岡くん』
「……ええええ!」
うわ…すごい動揺してる。
「きみ!きみ!あのお茶汲みの!?」
『……うん』
「……そういうことね」
燕は事情を把握したらしい。
正直、かける言葉が見当たらなかった。
『はは…』
「……」
帰りの電車の中、燕に掴み掛かるあたし。
『なんであんなことしたのよ』
「いや、てっきり合コンかなんかで知り合ったのかと思ってさ。椿芽ちゃんには正体をはっ…」
『あんたと一緒にするなぁ!』
言い切る前に胸ぐらを強く掴む。
周りの視線が気になるが今はそれどころではない。
その時、車内で考えていたこと。
正直、彼のあんな秘密はショックだった。
でもエリートになった以上、ああいう趣味は隠し通していかなければならないのだろう。
少しいいなって思ってたけど、やっぱりそんな隠し事がある人は嫌だな。
まあなによりあの趣味はちょっと…
恋愛って本当に難しいと改めて思った。