アンブレラ B-1
「どう?そっちのキャンパスライフ」
「結構楽しいよ。学びたいことをやってるんだし。そっちは?」
「こっちは普通かな?サークルは楽しいよ」
俺達は駅の近くにある広場のベンチに座っている。
離れていた月日をどうしていたか。
俺達は語り合っていた。
「変わってないね、君も」
「そうか?」
そうだよと微笑みながら言う。
「それならお前もだよ」
「そかな?」
「そうだって」
街並みが変わっていってるのにこいつは変わってない。
あのときと同じ目が今でもここにある。
眉をひそめる表情も、笑顔も、指のしぐさも……。
なにも変わらず、同じままでいたんだ。
時の早さに消されることもなく。
「あ、メールきてた」
でも…………
「誰から?」
一つだけ……
「ん?彼氏だよ」
心は違う誰かに染められていたんだ……。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
「それじゃまたね」
そう言って見知らぬ誰かと手を振る。
「あぁ、またな…」
段々と遠くに消えていく。
俺はその後ろ姿を見つめる。
君の空いている右手。
それを握って、奪ってしまいたい。
「………なんてな」
できるはずがない。今、あいつの笑顔を見ただろ?
幸せな、心から嬉しそうな顔だったじゃないか。
俺は我に返った。
少し駆け出した足を止めて振り返る。
「…またな」
呟くように、そして彼女の幸せを祈りながら。
そこで偶然のイタズラがまたそこですれ違った。
ふと後ろを向くと、あいつも後ろを向いていた。
そして大きく手を振った。
〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓
あの時、離れて初めて自分自身がやっとわかった気がした。
今思い出すと、少し切なくなる。
「どうしたの?」
「ん?いや、少し思い出をね」
今、俺も結婚して幸せに暮らしている。
あいつもきっと、幸せに暮らしているだろう。
いつか会ったら、また思い出話に華を咲かせよう。
それまで、俺はゆっくり歩いていこう。
こいつと2人で……
「パパー」
いや、3人か。