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堕天使と殺人鬼
【二次創作 その他小説】

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堕天使と殺人鬼--第11話---2

 プログラム(ぷろぐらむ)とは、正式名称、?大東亜共和国戦闘実験第六十八番プログラム?と言い、一九四七年から共和国に存在する法案で、おおよそ共和国の人民でこの法律の名称を知らない者はいない。内容はいたってラフである。
 全体主義国家であり世界的にもかなり前進しているこの、大東亜共和国であったが、徴兵制と言うものが存在しなかった。そのため共和国政府、そして専守防衛陸軍が、防衛上必要な戦闘実験と称し、毎年全国の中学三年生を対象に任意の三十学級を選び(百科事典を参考にすると、四九年以前は四十学級だった。その後はずっと五十学級だったのだが、現在社会問題になっている少子化がどんどん深刻な状態になり始めたので、ほんの数年前に変更したようであった)、クラスメイト同士、最後の一人になるまで殺し合いをさせ、その実験結果、主に所有時間などを検討する、と言うものである。それ以外の詳細については国民一般には公開されていないので、一切不明である。ただ、定期的にニュースによってプログラムが実施されたクラスの実験内容が、簡潔に伝えられる。
 各学級のプログラム最終生存者、一般的に呼ばれる愛称とすると優勝者には、一生涯の生活保護の財産と、大東亜共和国総統陛下からの直筆の色紙が与えられる。開始初年に国民の、一部過激派から起こった抗議・煽動行為に対して、当時の第三百十七代総統が行った?四月演説?は実に有名である。
 プログラムに関しての晴弥の知識は、こんなもんであった。しかしこれは、共和国の人民なら誰でも知っている、いわば常識である。三木原の言う通り、実際小学校四年生の時の教科書からプログラムは登場していたし、中学一年生の教科書では?四月演説?の内容が、まるまる一ページ紹介されていた。

 まあ、そう、それはともかく――自分が、そのプログラムに選ばれた、だって? おいおい、本当に冗談でしょ、それ。いやマジで。
「えー、そう言うことで」いつの間にか、三木原が拍手をやめて、頭を掻くふりをして苦笑している。「とりあえず、みんなまず自分の席に着いてくれないかな? 色々、説明があるから――」
「ちょっと待って下さい。」
 尚も何か続けようとした三木原の声を、高くて澄んでいる声が遮った。混乱した頭で、ほとんど無意識の動作でそちらに目を向けて見ると、女子学級委員長の草野香澄(女子四番)が険しい表情で一歩、踏み出していた。
「いきなり、そんなこと言われても……はっきり言って訳が分かりません。」
 香澄は、今の晴弥とは全くもって比べ物にならないほど、落ち着いているような印象を受けた。それで晴弥も、香澄も冷静な姿を目の当たりにしたからだろうか、次第に混乱が解けて来ているようだった。そう、そうだ、まずは冷静にならないと。頭を何度か左右に振ってみる。
 その様子に気付いたのだろうか、晴弥のすぐ後ろにいたらしい親友の都月アキラ(男子九番)が、左肩を軽く、二度叩いて来る。晴弥が、まずは手の置かれた左肩を見て、その後それよりも少し上に視線を動かしてアキラの顔を見ると、やはり彼も頼れる学級委員長、草野香澄同様に冷静な様子がその表情から伺える。そして晴弥と目線がぶつかると、顎を引いて頷いてみせた。親友だから分かる。これは――お前も冷静になれ、と言う意味だ。それで晴弥はようやく、少しずつ、ある程度の落ち着きを取り戻した。
 そんなことをしている間にも、香澄はまだ何かを言おうと思っているのか口を開きかけている。三木原が、ゆっくりとした動作で香澄を見つめた。両者の視線がぶつかり合い、なんとなく、緊張した雰囲気が漂う。
「私たち、プログラムなんて知りません。修学旅行に行く途中だったんです。」
 もちろんここで香澄の言う?知りません?とは、プログラムと言う法律を知らないと言う訳ではない。恐らくは、そんなことは聞いていない、だとか、そんなものは自分たちには関係がない、だとか、そんな風に香澄は言いたいに違いなかった。
 三木原の少しだけ茶色がかかった黒い瞳が一瞬、冷たい光を帯びた――気がした。同時に目をわざとらしく細めて見せ、何かを言おうとする。
 しかし彼よりも、生徒たちの方が反応は早かった。香澄に感化されたのか、思考回路が戻って来たのか、口々に声を上げる。――「そうだ」――「そうだ、そうだ」――「なんだよ、プログラムって」――「ねえ? 普通に訳分かんないよね。」――「あの人さ、頭おかしいんじゃない?」――等々。まるで噂話をするような感じだった。


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