『暖かい雪-2-』-2
「あ、すいません、会社から直で来たからまだこんなカッコで。」
「いや、そっか。会社か…。」
「はい。あれ、もしかして水沢さん、あたしの事高校生くらいだと思ってましたー?」
なんだ、そうか。
ちゃんと社会人じゃないか。
新潟の踊り子じゃなくてよかった。
「いや?そんな事はないよ、うん。」
「ホントに?じゃーなんで笑い堪えてるんですかっ。」
「や、鋭いなぁと思って。」
「いいんです。よく間違えられるし。でも19歳だから、せめて大学生くらいには見られたいんですけどね。」
「…19?若いな。」
「今まで高校生だと思ってたんでしょ。実際の年聞いて若いもなにもないですよ。」
「ん、確かに。」
俺が食べている間、舞子はずっとその横でニコニコと話している。
「水沢さんは何歳なんですか?」
「え、俺?27。」
「へぇーそっか。じゃあ仕事も落ち着いて、長期のお休みが取れたって感じですか?」
「…そうだね、そんな感じだ。」
そうだ、彼女は俺の事を名前と年以外、何も知らない。
彼女の中で俺は、きっとどこかのサラリーマンといったところか。社長だという事など、知りもしない。
…だからいいのだ。
社長と聞いた途端色目を使ってくる女達には、もううんざりだ。
何もかもから、俺は逃げてきたのだから。
この素朴で純粋な彼女の目に、俺は救われているのだ。
「舞子ちゃん、飲み過ぎないようにな。」
「うん、大丈夫。あたしね、こう見えても結構いけるクチなの。」
「いけるクチも何も…一応未成年なんだから。ホントは俺には止める義務があるんだからね。」
彼女が台所から持ち出して来たらしい酒を、俺は誘われるままに飲んでいた。
「これでも社会人なんだから!もうお酒には慣れましたー。かたい事言わない言わない!」
血色の良い頬をますます赤くして、舞子はもう出来上がってしまいそうだ。
会って二日目の男と二人きりで酒を煽るなんて危険な行動は慎むように言おうとしたのだが、時すでに遅し。
彼女はぐいぐい飲みほしながら、会社の上司の愚痴などを零している。