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Twilight Closse
【青春 恋愛小説】

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Twilight Closse15〜脈動の十字朗〜-1

落ち着いた奥山を適当に見つけてきた布団に乗せて、俺は考えた。
こいつ、さっき喋ったよな?お母さんて。
まさか、実はこいつ喋れるとか言うオチなんじゃないよな?
いや、あり得ないかな。
現に、最初奥山は喋れなかった。言葉を繰ろうとしてもきちんとロレツが回ってなかった。
わざとならたいしたもんだ。
じゃあ何だ?ある程度俺と会話(片方は筆談だが)して短い会話ならできるようになったのか?
まさかだろ。アイツの喋る練習はしていない。
その当人は泣き疲れて寝ているようで、スゥスゥと女の子らしい寝息を発ててる。

「…分からん」
とりあえず、この事は保留だ。変に奥山に聞いて、またさっきみたいにブロックワード状態にさせる訳にはいかないしな。

……
………
え…と…だな…
「何しよう?」
通帳は有るが暗証番号不明。
聞こうにも奥山はダウン。
頼ろうにも、ここには誰もいない。
奥山と俺、二人だけ。


ドクン…

…何だ?
今、何だか物凄く変な気分になった気がする。
辺りを見回す。誰かが覗いてる訳じゃ無い。西野が良く発してる殺気とも違う。
でも…何だか落ち着かない。
奥山は、寝ている。
…ドクン
「…そ…掃除でもするかな」
変な気分が紛れるように、俺はまだ終わってない所の片付けを始めた。

二時間後…

持ってきた袋は全部満タンになった。明らかなゴミ(何も書いてない紙やらカップ麺のカスやら)しか捨ててないのにかなりの量だ。このいるのかいらないのか分からないマンガの冊子は紙が上等なのもあったし、某巨大ヒーローのソフビのフィギュアも念のためとっておいた。親父さんの形見かも知れないし。
「ん…」
と、ここで戦隊ヒーローが駆け付ける位のタイミングの良さで、奥山は目を覚ました。
「…よう。気分はどうだ」
出会った当初の様な光の無い三日月眼で、奥山は不思議そうに俺を見つめた。
…ドクン
まただ。あの変な感覚。それも、かなり大きい奔流。
「その…部屋の片付けは全部できた。いりそうな物は取っておいたから確認してくれ」
指で本とフィギュアの山を指差して、奥山から顔を背けた。
ごそごそ何の疑いも無しに奥山は探った。
「あと、預金通帳。暗証番号分からないからコイツは使えない。飯は何とかするけど、今日は…」
振り向かなくてもコイツの感情は分かった。何だか背中から負の感情をフルバーストで放ってる。オーラが見える位に。
「う…その…悪かった…俺が不甲斐ないばっかりに…」
何謝ってるんだ俺。俺はボランティアで来てるんだし、そもそも金が無いのは西野のせいだ。俺は悪くない。
『平野君は悪くないです』
奥山の反応は意外で、慌てた様にスケブにペンを走らせた。
『平野君の料理はおいしいです』
『平野君のお陰で私は生きてます』
貴重なスケブを一気に三枚も使って、俺に他意が無い事を伝えてくれた。
「ん…ああ。ありがと」
訳もなく、例を言う。
いや、理由ならあったな。少し、嬉しかったからだ。
どことなくさっきの変な感じにも似ていたが、今は少し安心感がある。
…おかしな話だ。
「じゃ、取り敢えず今日は帰るぞ」
少し不満そうな顔をして、奥山は頷いた。
そして廊下を抜け、玄関まで俺を見送ってくれた。
「じゃな」
無表情な顔で手を振って見送ってくれる奥山は、何だかいじらしく見えた。
扉を閉めるまで、奥山は手を振っていた。

さて、帰って金策でも考えるか。


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