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恋の奴隷
【青春 恋愛小説】

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恋の奴隷-8

「ねぇアイツ柚の何?」
鋭く光った優磨の目に怯えながらも、吐息がかかる程近い顔と顔に私の鼓動は猛スピードで打ちつける。
「な、何って友達よ…は、離して…」
緊張して声が震える…。
「友達…?柚はそう思っててもあっちはどうだか」
「優磨には関係ない―ッ」
その瞬間頭が真っ白になって。優磨の長い睫毛が目にうつり、唇が押し当てられていることに気が付く。唇が離れ、目を見開いて優磨を凝視すると優磨の色素の薄い茶色い瞳が小さく揺れて。
「…ゴメン」
優磨がポツリとそう呟くと、腕の力がすっと軽くなっり、私は優磨の身体を押しやって、家の中に入ると急いで階段を駆け上がり、自分の部屋のベッドにそのまま倒れ込み突っ伏した。優磨の私を見つめる熱い視線が脳裏に焼き付いて離れない。そっと自分の唇に触れるとまだ残る優磨の唇の感触に胸が苦しくなって涙がポトポトと落ちて枕にシミをつくっていく。
その晩、彰子さんが心配そうに部屋の外から声をかけてきたけれど、優磨と顔を合わすのが怖くて体調が悪いからとずっと部屋に閉じこもっていた。
「柚…」
すると今にも消え入りそうな優磨の声が、シンと静まり返った部屋の中に入ってくる。
「さっきはゴメン…俺どうかしてた。だからさ、ご飯だけでも食べに降りてきてよ…お願いだから」
その声は逆にこっちが心配してしまう程、弱々しくて。
「何でッ…何であんな事したの?」
震える声を押し殺して、そう問い掛ける。
「俺…柚のこと独り占めしたくて…他の奴に取られちゃうんじゃないかって一人で焦って…」
頭が混乱する。だって優磨は私のこと何とも思っていないはずでしょ?
「だ、だから…柚は俺だけのなんだよ!」
…はい?
「他の奴に笑いかけるな!」
…ちょ、ちょっと待ってよ!
何だか優磨の言ってることはめちゃくちゃで。
「何よそれ!?」
思わず部屋のドアを開け放して優磨に怒鳴りかけると、そこには顔を真っ赤にして半ベソをかいた優磨がバツの悪そうな顔をしてつっ立っていて。
「ぷッ…アハハハハ!」
私はつい吹き出してしまった。だって、いつも強気の優磨のそんな顔を見たら、何だか拍子抜けしてしまって。優磨は自分勝手で横暴で、だけどなぜか憎めない。
「な、何で笑うんだよ」
さらに顔を赤く染め上げてふるふると泣きそうな顔で私を見つめる優磨が可愛くて。
「ヤキモチ妬いたの?くははッ」
「わ、わりぃかよッ!?」
「優磨ったらそんなにお姉ちゃんっ子になっちゃったぁ?」
にぃっと口の端を上げてからかうと、優磨はすっかりいじけちゃって。
「姉貴だなんて俺は思ってない…」
幾分小さく呟いた優磨の声は私の笑い声に掻き消され。私はずっと独りっ子だったから、弟が出来たらきっとこんな風にヤキモチを妬くのだろうと勝手な理解をして。優磨の本当の気持ちになんてこれっぽっちも気付いてあげられなかったの。


その日から優磨が私について回るのも、わがままを言って私を困らすのも、甘えているようで可愛く思えちゃって。ただ一つ気に掛かってしまうのは、時折見せる優磨の寂しそうな瞳―。


「なぁ柚?」
今朝もぎゅうぎゅうの満員電車だったけれど、私は優磨の腕の中にいて守られていた。もちろんいくら優磨が弟だと思っても、この密着した空間の緊張は相変わらずで。
「な、何!?」
普段より幾分近くで聞こえる優磨のひそやかな声にビクリとして、つい上擦った声を出してしまうわけで。鳴り止まない胸のドキドキを落ち着かせるために静かに深呼吸を一つ。何気ない会話を幾度か交わし。そっと上目遣いに優磨の顔を覗いて見て。やっぱり綺麗な顔だなぁと身内ながら感心してしまう。すると、優磨と目が合って、私の腰に手を回すと、どうした?と耳元で囁かれて。ボッと顔が熱くなる。優磨は私の顔を見てくっくっと可笑しそうに笑って。何だか調子が狂ってしまうから、優磨のこういう仕草は苦手…。

昇降口で学年の違う私達は別れて、浮かない顔で教室へ向かって歩いていると、後ろから誰かに肩を叩かれ飛び上がる。
「うわぁッ!柚姫大丈夫か!?」
「柚姫ったら何慌ててるのよ!?」
びっくりして後ろを振り向くと、ヒデと夏音も同じく驚いたように目をパチクリさせていた。急に肩を叩かれたりしただけで優磨だと思ってドキドキしてしまう私は変かしら…。


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