投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

恋の奴隷
【青春 恋愛小説】

恋の奴隷の最初へ 恋の奴隷 3 恋の奴隷 5 恋の奴隷の最後へ

恋の奴隷-4

「あ、優磨ちょっと待って」
「ん?」
「あのお店入ってい?」
暫くして私は買い物の途中だった事を思い出して、優磨の腕を引っ張った。

お店の中に入ると目に止まったトップスを手にとって鏡の前で当てていると、後ろから優磨が眉間にシワを寄せて取り上げた。
「あ、ちょっとぉ」
取り返そうとしたけれど、優磨の頭程の高さにある服に届くわけもなくて。
「露出高すぎだからだーめッ!こっちのが似合うよ」
そう言ってにまにまと笑い、白いレースの付いたワンピースを渡してきた。優磨は文句を言う私をよそに試着室へと無理矢理押し込んできたわけで。
「着たら見せろよ」
「…う゛ぅッ」
数分後、渋々着替えを終えて試着室のドアを開けると、優磨が何やらにこにこと笑みを浮かべながら頷いて、店員さんにこれ下さいと言っていた。
「え!?ちょっ…」
「今日はずっとこれ着てろよ?」
優磨が支払いを済ませると店員さんが、
「優しい彼氏さんで羨ましいわ」
と、うっとりとしたような目で優磨を見ていて、弟だという訂正を入れる間もなく、優磨は嬉しそうに柚に似合うと思ったから、だなんてさらっと口にして。何だかくすぐったい感じ。
お店を出ると空はもう薄暗くなっていて、通りを行き交う人の群れもさっきより一段と多くなっていた。すると優磨が黙って私の手をとって、
「柚チビだから迷子になったらめんどくさい」
なんて皮肉を言ってきた。少し腹は立ったけれど、さっきからすれ違う人にぶつかりそうになりながら優磨の後ろを歩いていたから。ぎゅっと握られた手から伝わってきたの。それが優磨なりの優しさなのかなって。それに優磨とこうやって歩いていると、ちょっと優越感。だってカッコイイとか羨ましいとか聞こえるんだもの。ふふッと一人、つい笑みが零れて、優磨が首を捻って訝しげに聞いてきたけれど。優磨ってそんなに悪い奴じゃないかもしれないな、なんて思ったりした一日だった。


薄いピンクのワイシャツをグレーのプリーツスカートの中にしっかりしまって。胸元には大きな赤いリボン。緩くウェーブがかったハニーブラウンの長い髪。メイクはくるんとカールした長い睫毛にマスカラをたっぷり塗って、仕上げにピンクのリップ。
そう、今日は待ちに待った始業式。私はいつものように鏡の前で全身をチェックしていた。
優磨を見る目がちょっと良い方向へと変化したあの日。けれど、相変わらず優磨は自分勝手で、あれやれこれやれ、どこに行くんだ、俺も行く…といった風に私にべったりとくっついていたせいで、私の貴重な夏休みは全て優磨に奪われてしまった。少しでも優磨をいい奴だと思ってしまった自分が馬鹿だったとすぐに後悔したわけで。鏡越しに映る自分の姿を見つめながら、静かに吐息を吐いた。けれどそんな日々からも解放される。
「よしッ」
意気込んでブレザーを羽織り、玄関を出ようと鞄を持ったところで後ろから呼び止められて。
「…なによ」
怪訝そうに後ろを振り向いて、私は唖然とした。
「似合うっしょ?」
そこには私の通う高校の制服姿の優磨が、ふふんと鼻を鳴らして立っていて。
「ちょっ…えッ!?な、何で!?」
「何でって…俺も柚と同じ高校のがいいだろうっておじさんが」
パパったら何でそう余計なことを…。
「おいッ!遅刻するだろ」
がっくりと肩を落としている私をずるずると優磨は駅まで引きずって歩いたのだった。


恋の奴隷の最初へ 恋の奴隷 3 恋の奴隷 5 恋の奴隷の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前