春待-1
好きなもの、アイスクリーム。
できればバニラがよく香る。
嫌いなもの、あんこ。
特に、こしあんは。
どうしたって、飲み込むことができない。
好きなもの、果物、なんでも。
摘みたてのそれは、きっとあまりにも瑞々しくて、滴る雫が寂しげに光を放つかもしれない。
嫌いなもの、漬物、ほとんど。
なんだか覇気を失った、枯れていくようなその歯ごたえのある柔らかさが、受け入れられない何かを持っていると。
信じて疑ったことはない。
好きなもの。
スキナモノ。
晴れた日の朝早く、一人で外に出て感じる冷たい空気。
清浄で、色は青い。
きっと、南の―見たことはないのだけれど―コバルトブルーの海の中にいるような、美しさに浸ることができる朝。
ただただ幸せだと思う。
窓ガラス越しの陽のヒカリ。
光が気持ちいいのは、冬。
枯れた葉がまとわりついた細い枝を通して、鋭さのない光だけが私たちを照らす。
私が愛する、緩やかな時間。
傍らに、ねこを抱えて。
本を抱えて。
ただぼんやりと、時を過ごす。
牡丹雪。
美女の代名詞を背負った。
儚くも華やかな。
ぼわり…またぼわりと。
空が落とす、落し物。
鉛のような、鈍色の雲が滲むほどに濃密に降る雪は。
どこまでも暖かい。
そして溶けゆく。
自分の身体の温もりを感じ、隣に往く見知らぬ人にも。
その温もりを求めて。
滴る雪は、なぜか哀しい。
大切なモノ。
恋した人への想い出。
甘やかで、溶け出してしまうほどに滑らかな。
私を形づくる、かつての想いたちは皆。
今にも溢れ出そうになりながら、それでも必死で堪えて。
グラスの縁にしがみつく水滴のように、触れてはいけないのだ。
もう、触れると。
再び溢れてしまう。
この大切な、想いたち。
スキナモノ。
すべて。
すべてを、拒絶することなく受け入れ、そしてすべてを。
追うことなく。
どんなものにも拘泥せずに。
風の如くに生きる。
私はそよ。
春を駆ける、そよ風。
もうすぐ春。
抜けるような白い肌は、厳しい寒さに晒された証なのだと思う。
細く堅く締まった、身体つきをしていて。
細く形のよい手足。
温もりのある身体に耳を寄せれば、生きている音がする。
私が纏わることを許してくれる優しさと。
心を見せぬ寂しさと。
幾世巡ろうと、きっと共に生きることはないけれど。
それでも私はこの樹を愛する。
真っ白い幹に、瑞々しい新緑を纏った姿しか知らない。
それが私にとって、白樺のすべてを表している。