シスコン『第七章』-2
全国にチェーン店を構える大手ファーストフード店。ハンバーガーなどを格安の値段で食べる事ができる人気の店。
そこに、秋冬達三人はきていた。
「貧乏学生にとっては天国だなオイ。」
そう言って、澄はチーズバーガーにかじりつく。秋冬はナゲットセット。優魅はポテトにドリンクだ。
「オレは別に普通の店でもよかったんだ。金は学校休んでた時に貯めたからな。」
「うん…、澄君がお金ないからここになったんだよね。」
優魅は苦笑いした。
「ん?あれ…、」
秋冬が見る。澄と優魅はそれにつられる。
「あ、梓。」
優魅が言った。
「……あれ?千里?」
梓の隣りには、千里がいた。
「ほぉ〜、デートですか。」
澄が言った。秋冬がアイスティーを一口飲む。
「あの二人…付き合ってんのか?」
優魅は考えていた。
昨日の夜、千里が言った言葉と、梓に相談された内容。
優魅には、二人がどうなるかなんとなくわかっていたが、黙っておく事にした。
「やけに身長差あるな。」
澄が笑った。
「オレよりも少し高いかもな、柚木さんってさ。」
秋冬が言った。澄が言う。
「なんかさぁ…意外と向こうは気付かねぇもんだな。」
「きっと二人の世界に入っているのさ。」
「二人の世界?………『ねぇ千里君?千里君は何食べる?』」
「なんで裏声なんだよ。」
「『えっとねぇ…キッズセットとねぇ…。』」
「なんでキッズセット?」
二人のやり取りを見て、優魅は笑っている。
「『ねぇ柚木さん、どこに座る?』。『柚木さんなんてやだよ……、梓って呼んで。』。『じゃあ……梓。』………キャァーーー!恥ずかしいっ!」
「あほだ。あほがいる。」
秋冬は机に突っ伏した。優魅はポンポンと頭を叩く。
「でもなんか言いそうだから怖いな…。」
秋冬は最後のナゲットにたっぷりソースをつけて食べる。それでもソースはあまっている。
「…使う?」
ナゲットについているバーベキューソースは、ポテトにもよくあう。
「あ、使う使う〜。」
優魅はポテトをつまんでソースに伸ばす。
その二人の様子を、澄は黙って見ていた。
唯一秋冬本人から、その確かな想いを聞いている身としては、複雑な思いでいっぱいだ。
澄は言えないでいる。秋冬に、その思いは叶わないよ、と。姉を好きになってしまっても、救いなんてないと、どうしても言えないのだ。
それは、秋冬が本当に心から傷つくのを見たくないから。
だから澄は、優魅の恋が叶えばいいなと、そう願っている。たとえ自分の想いが報われなくても。秋冬と優魅がうまくいけば……と、そう願っているのだ。
「作山どうした?ボーッとして。」
「んっ?あ?」
澄はびっくりして、変な反応をしてしまった。
「いや…なんでもないよ。」
澄は力無く微笑む。その違和感に気付かない秋冬ではないのだが、気にはしなかった。
「今からどうする?」
秋冬が聞いた。
「そりゃあもちろんあの二人の尾行を…、」
スパンッと音がした。秋冬が澄の頭を景気良く叩いたのだ。
「それはやめようぜ。二人がかわいそうだろ…。」
それから二十分後、店を出た千里と梓の後ろから、秋冬達三人がついていた。
「馬鹿だろお前。」
秋冬が少し小声で言った。
「まぁまぁ、楽しんでるくせに。」
秋冬は否定しなかった。優魅も、何故か乗り気だ。
「……ん?」
秋冬が何かを見つけた。それは、秋冬を今日一番に動揺させた。
「…悪い、オレ帰るから。」
「えっ!?」
秋冬は走った。二人はその速さに、呆気にとられた。