ワスレモノ-7
しばらくして落ち着いたのか、彼はベンチにゆっくり腰をおろした。
自分の隣をポンッと叩いて私に座るように促した。
──隣‥‥
──いいのかな‥‥?
少し躊躇いながら彼の隣に座った。
なんだかそれだけて私は嬉しかった。
いつも後ろから背中を見てるだけだけだったから。
こうして隣にいれることが奇跡みたいだった。
それから何を話すわけでもなく、日はどんどん傾き、気付けば空は真っ暗だった。
『‥帰ろう。送るよ。』
そう言って彼は立ち上がり振り返って、手を差し出した。
握られた手から緊張が伝わってしまいそう。
結城君と繋いだときとは全く違う。
足元が覚束ない。
心臓が煩い。
視点が定まらず、呼吸が一定のリズムを乱す。
気が付けば家の前。
二人とも黙ったまま‥‥。
どうしよう。
千葉君は繋いだ手を離す気配はない。
あたしから離すことなんてできっこない。
一人でこの状況をどうすべきか眉間に皺をよせていたら、急に彼が口を開いた。
「もし、自分がどう願っても手に入らないものがあったとして、諦めて前に進んだ途端に、目の前にそれを差し出されたらどうする?」
「へっ‥‥?」
あたしは予期せぬ彼の言葉に首を傾げた。