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ツバメ
【大人 恋愛小説】

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ツバメ@-1

あたし、綾瀬椿芽(あやせつばめ)はただ今、猛烈に憤りを感じています。
楽天的で自由奔放な“あのバカ”だけど、まさかここまでやるとは思わなかった。
真新しいスーツに袖を通して、いよいよ社会人一年目の春を迎えるあたし。
それは“あのバカ”も同じだった。

“一緒に社会人一年生、頑張ろうね”

そう言ったはずなのに。

“あのバカ”は今日、あたしたちが通っていた大学で行われた、新卒社会人研修会に顔を出さなかった。
研修会は先程終了し、あたしは心配になって“あのバカ”に電話をかけた。
それがほんの数分前の出来事。

『どういうことよ!就職蹴って専門学生に進学するなんて!』
あたしは空に向かって叫んだのだった。


第一話
ありえない


『……どういうことか説明しなさいよ』
「…………」
あたしと“このバカ”は喫茶店のテーブルで向かい合っていた。
『……じゃあまず、どうして研修会に来なかったの?』
「………就職蹴るんだから、意味ないじゃん」
“このバカ”は眉をつり下げてそう言った。
『う…それもそうね、じゃあそもそも、どうして就職蹴ったの?』
「……言ったじゃん、専門学校に進学することにしたから」
“このバカ”は口が本当に上手い。いや、あたしが下手なのかもしれないけど。
どうしようもないので、あたしはテーブルを強く叩いて言った。
『だから!どうして専門学校に進学するのよ!?』
「聞くの?聞いちゃうの?」
『は?』
“このバカ”は突然ハイになる。
「……俺さぁ、遊び足りないんだよねー」
『……はあ?』
「だから、専門学校でもう二年間遊ぶことにした。資格も取れて一石二鳥だし」
『……あんたマジで言ってんの?』
「だから、もう会社には連絡したし、明日は専門学校の面接なんだよね」
『別れてやる!』
あたしはそう言って喫茶店を飛び出した。

これがあたしの彼氏、鳥羽燕(とばつばめ)だ。
付き合いは割りと長い。
もちろん、最初はこんなやつじゃなかった。
ルックスは悪くないし、優しくて頼りになる男だった。
しかし、どういうわけか、何でもあたしに甘えるようになって、いつしか今の“あのバカ”に成り下がってしまった。
そりゃあ最初は、甘える仕草が子どもみたいで可愛いとか思ったよ。でも甘やかしたつもりはないわけで……
まあ、何だかんだ言っても所詮は彼氏。
別れようと思えばすぐに別れてオサラバだ。
なのに、あたしはなぜか燕と別れない。
なんていうか、腹立つけど、もう生活の一部になっているというか。
『でも今回は話が別よ!』
つい道端で叫んでしまった。
叫ぶ癖がついてしまったようで何だか恥ずかしい。
まあとにかく、燕はあたしに一切の相談も無く就職内定を蹴ったのだ。もう知らない。
そう決心しながら家路についた。


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