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ツバメ
【大人 恋愛小説】

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ツバメ@-2

しばらくして、椿芽はベッドに飛び込むと携帯を開いた。
着信もメールもなし。
追いかけてこない上に連絡もなしか。もう終わりなんだなと実感する。
まあ、なんだ。あたしはかなり優柔不断であって、とても決意なんて出来ないわけで。
半日でもう“謝ろうかなー”とか“メールしてみようかなー”とか思ってしまう。
ひょっとしたら、あたしは燕の術中にはまっているのかとさえ思う。
昔から、なんだか別れられないのだ。


気がつくと朝だった。いつのまにか眠ってしまったらしい。
ズキズキ痛む頭を押さえながら、バスルームに入る。
服を脱いで熱いシャワーを浴びるとすぐに目が覚めた。
リビングでコーヒーを啜りながらパンを焼く。
ああ、落ち着く。一人暮らし、最高だわ。
大学二年の時から住む、このワンルームマンションはもう手放せない。
はあー、と息をつきながら、午前の静かな時間を堪能するあたし。
『そろそろかな』
カリカリに焼けたトーストに手を伸ばした瞬間。
「どーん!!!!」
『ぎゃああああ!』
玄関からすごい音と声が聞こえた。
そして同時に、あたしの束の間の平穏は見事にぶっ壊された。


『どういうことよ』
あたしはキッと睨みをきかせる。
「ピンポンしようとしたけど、イイ感じに開いてました」
もちろんこれは燕の仕業だった。時々、朝食を食べに家に来て、一緒に大学まで行っていたのだ。もう大学は卒業したわけだけど。
『……あ、鍵閉め忘れてたんだ、昨日イライラしてたから』
「えー、イイ感じはスルー?椿芽のいじわるぅ」
燕はぶー、とふくれている。
あー、あの膨らんだほっぺをつねりたい。
殺意を覚えながら、玄関の鍵をかけた。
『あ…』
振り返ると、もうすでに燕はリビングに。
『ちょっと』
慌てて追いかけると、すでにリビングはひどい有様だった。
イチゴジャムを塗られ、二口ほど囓られたトースト、消えたカップの中のコーヒー、テレビからはニュース番組が流れていた。
そして災いの元凶は呑気に鼻歌を歌いながら、キッチンで朝食を作ってやがる。
あたしは再び殺意を覚えたものの、卵のじゅー、という音や、ベーコンの香ばしい匂いが胃を激しく動かす。
燕は、実はかなり几帳面な性格で料理上手。
過去に空腹で動けない時、何度助けられたか。
昨日は昼から何も食べてないのを思い出し、あたしはその場にへたりこむ。


数分後。
『で、なんの用?』
テーブルの上にはトーストにスクランブルエッグ、ベーコン、コーヒーカップが二つ。
「え?ちょくちょく一緒に朝ご飯食べてるじゃん」
『……あんた、昨日のこと忘れたの?』
「……別れてやる!のこと?」
『そうよ。こうやって翌日顔出すくらいならあの時に追いかけてきなさいよ』
「え、あれマジだったんだ?」
燕はトーストにベーコンを乗せながら聞いた。
『あったりまえよ』
「………あのね椿芽ちゃん、別れてやる!はもう大学時代から数えて通算、十四回目なんだけど」
『う』
「マジならマジって今度は先に言ってよね」
燕は真面目な顔でそう言う。
『………はい』
また言い負かされた。
「あ、この犯人捕まったんだ」
なんて燕は呑気にニュースに夢中だけど、本当にあたしのこと考えてくれてるんだろうか。
燕は時々、ああやって自由奔放なことをするけど、いつもの燕はやっぱり好き。

あたしは何だかんだ言って、また別れることができませんでした。


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