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ひきこもりの歌
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ひきこもりの歌-4

「香苗っ!」
 自分なりに大きな声で怒鳴ったつもりだったが、常人ほどでなかったのだろう。香苗は振り返りもしなかった。
 追いかけて電車の切符を買おうとするが、入場券ってどうやって買うんだっけ? かなり混乱しながら券買機と格闘する。
 やっと買った切符を改札に通すのにも一苦労。
 なんとかホームに上がると、香苗を捜す。
 いた。
 向かいのホーム。香苗は一人で立っていた。男はいなかった。
 香苗は僕を見て一瞬、驚いた顔をした。
 そして次の瞬間、駆け込んできた電車が彼女を隠した。ちょうど彼女の側の電車だ。乗ってしまうのだろう。
 でも追いかける時間はない。電車はすぐに発車する。
 波のように後悔が押し寄せてくる。
 あの時ああしていれば、その時そうしていれば……
 巧くやるチャンスはいくらでもあったはずだ。
 電車はドアを閉め、ガタゴトと走っていった。
 結局、間に合わなかった。
 僕はうつむく。
 いつもそうだ。僕は大事なことを自分の諦めぐせで失ってしまう。もっと早くから真剣に向かい合っていれば今はもっと違うものになっていただろう。
「大地」
 声がした。顔を上げて目を丸くする。
 彼女がいた。電車に乗らなかったのだ。
 僕は驚きと興奮で叫んだ。
「追いかけてきたよ。香苗が好きだから」
「あたしも待ってた。大地が好きだから」
 言い返す香苗の瞳が潤んでいた。
 これからやり直そう。失敗しても何度でも。必ずではないが、人生は意外とリセットが効くのだから。


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