佐智子さんの話。-1
昭和の古き良き時代。
70年代。
人間が月に到達したあとの話。
佐智子という名の女子高生がいた。
彼女は私立女子高に通う、当時で言えばお嬢様。
お嬢様と言えども、父のコネで入学したのだ。
世間体ではお嬢様と思うに違いなかった。
18歳。年頃の娘、佐智子は恋をしていた。今までたくさん恋愛をしたけれど、どれもうまく行かずに直球な愛情が空回りするだけの、消費的な恋ばかりしていた。
今度こそは。と毎回思うポジティブな性格の持ち主である。
その相手とは教育実習でこの私立女子高に赴任した、誠二郎(22)というイケメンだった。
だがここは女子高。
ライバルは数え切れぬほどいた。
「誠二郎先生素敵よね」
「かっこいい」
と皆が口々に賛美の言葉を漏らした。
佐智子はポジティブな性格なので、いつか誠二郎先生は自分のモノになる。いや、絶対自分のモノにする。と勝手な妄想を展開していた。
誠二郎はテニス部の顧問だった。
部活が始まり、女子達は誠二郎の華麗な指導姿を見ようと、わらわら集まりだしたのである。
さながら、女子高に舞い降りた白馬の王子さま。
さあ、私をさらって!私よ!いいえ私よ!と聞こえてきそうな女子達の歓声。
そこに佐智子はいた。
差し入れも渡した。
皆と同じような手作りのクッキー。
きっと食べきれなくて困ってる。
それでも佐智子はめげなかった。
毎日毎日、顔を出した。
そのうち、誠二郎も顔を覚えてくれるだろうと。
しかし、それは一人の生徒として、だった。
募る想いと歯がゆさで佐智子はいたたまれなかった。
そして、手紙を書いたのである。
誠二郎ではなく、毎夜毎夜流れているラジオのリスナーとして。
自分の学校にはかっこいい教育実習生がいます。
想いをペンでつらつらと綴った。
佐智子はポストに投函し、眠った。誠二郎の夢を見ながら。
朝が来て、学校へ行き、授業を受け、放課後は誠二郎の元に行く。
そんな変わりのない毎日を過ごしていた。
―――時は過ぎて、いつものように制服を身に纏い学校へ行ったときのこと。
いつもと違う雰囲気に佐智子は疑問を感じた。
突き刺さる視線。
皆が佐智子を睨むような目線で見つめてくる。
なぜ?
一人の少女がその答えを出した。