佐智子さんの話。-3
幸せな毎日はそう長くは続かないもので、ある日誠二郎の元に一通の手紙が舞い込む。
手紙の内容は、本来であれば光栄なことだった。
教員としての仕事を日本ではなく、ケニアの日本人学校で仕事をしてみないかという、誘いの手紙だった。
誠二郎は悩んだ。
ケニアに行くと言うことは、佐智子と別れるということに繋がる。
当時は携帯電話なんてものはない。ましてや、海外なんて、雲の上のような話である。
どうするべきだろう。
何が一番正しいのだろう。
誠二郎は、迷ったあげく佐智子に告げた。
「結婚しよう。」
もちろん、佐智子を一緒にケニアへ連れて行こうと思ったのだ。
今度は佐智子が悩む番だった。
自分はまだ十代。
結婚を決めるには早すぎるのではないだろうか。
ましてや見知らぬ土地でやっていけるのだろうか。
佐智子の父は猛反対した。当然である。
結局は、断ってしまった。
佐智子は一緒には行けないと断った。
あなたの夢をケニアで叶えてきて。とそう告げた。
けれど、納得のいかない誠二郎は、ケニア行きの話を断ってしまったのである。
誠二郎もまだ若い。佐智子と一緒にいたいのである。
それを聞いて、佐智子は憤慨した。
なぜ自分の夢を叶えようとしなかったのか。
「私がそれで、喜ぶとでも思ったの?答えなさいよ!」
怒りに満ちた佐智子を、誰もとめられなかった。
二人はうまく言えないまま、距離をおいた。
佐智子は頭に血が登り、恨みつらみをノート一冊分に書いて、誠二郎の家に送りつけた。
返事は来ないまま、二人は永久に別れた。
――――そして佐智子は大人になり、結婚し、そして子供も産まれた。
結局は旦那と離婚してしまったけれど。
親権も、旦那にとられてしまった。3人の子供達と離れ離れになってしまった。
全ては自分の犯した罪のせいで。
情けなくて、情けなくて、自分を呪った。
離婚後、実家に出戻り、佐智子は部屋の掃除をしていた。
幾分、掃除をしていないせいか、あらゆるところに汚れが目立つ。
佐智子は全てを綺麗にしようとした。
押し入れの奥に、埃まみれの何かを見つけた。
ケースにかぶった埃を手ではたき、涙をいっぱいに溜めて開けた。見なくても、何が入っているかわかってしまった。
あの時貰った、真珠のネックレス。
涙でキラキラと光った。