佐智子さんの話。-2
「ラジオ、聴いたよ」
ラジオ?
佐智子は何のことかわからなかった。
深く問うと、佐智子が出したあの手紙が、深夜のラジオで読まれたとのことだった。
自分で出しておきながら、すっかり忘れていたのである。
ドキリと心臓が冷や汗とともに流れた。
当時はラジオネームなんていう匿名なものはない。現在住んでいる県、そしてフルネームで名前を呼ばれるのである。
特にそのラジオは学校で人気があり、ほとんどの生徒が聞いていたのだ。
佐智子は軽いイジメにあった。
女という生き物はこうゆうところで団結力を発揮する。
それでも佐智子はめげなかった。
誠二郎の元に通い続けた。
嫌味な小言を完全に無視し、真っ直ぐに突き進んだ。
そして、幸運にも変化が訪れるのである。
あれほど誠二郎先生!誠二郎先生!とつきまとっていたギャラリーの数が、一日、また一日と過ぎ去る度に一人、また二人といなくなっていったのである。
人間というものは真新しいものがないと、とたんに飽きがきてしまうものだ。
最後に残ったのは佐智子一人だった。
焼いたクッキーの数は一番多かった。
誠二郎は教育実習生。
一ヶ月もいないうちにこの女子高を去る。
別れる際に、佐智子は自分の想いを告げようと前から考えていた。
そして、佐智子は告白するのである。
前から好きでした。
交際してください。
誠二郎は笑って答えた。
僕もずっと好きだった。と。
二人は両想いになった。
休日は映画、喫茶店へデート。誠二郎が出るラグビーの試合を応援しに行ったりもした。
普通の健全なお付き合い。
佐智子の誕生日には真珠のネックレスを送った。
「年に不相応だわ」
と佐智子は笑った。本当は涙が出るほど嬉しかった。
誠二郎の誕生日には手編みのセーターをプレゼントした。
誠二郎は喜んで次のデートの時には着てくる。と言った。
初めてキスをしたのも、手を繋いだのも、佐智子の初めては全て、誠二郎だった。