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夢の雫
【ファンタジー 恋愛小説】

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夢の雫2-1

白い天井、白い壁、白いカーテン、白いベッド、白い掛け布団。
小さな窓から月の光がベッドを照らしている。
その光で細かな塵が雪のように踊り回る。
雪の降らないこの町の雪の降る病室、まるで夢を見ているようだ。
「ふわぁ!」
「お!起きたのか」
重田が身を乗り出して神山の顔を覗き込んだ。
暑苦しい重田の顔はこの美しい光景を壊すには充分だった。
「一時はダメかと思ったぞ」
ふうと重田は安堵の声を漏らす。
神山は記憶を辿ってみた。自分がいったいなぜ病室にいて、重田がなぜ泣きながらため息をついているのか、さっぱり理解できなかった。
「何があったか説明してよ」
「あ、ああそうだったな」


重田の説明はひどく支離滅裂であった。
もとからあまり話が上手くない上に、あまりに日常からかけ離れ過ぎた現実重田が混乱するのも無理はなかった。
それでもそんな重田の説明を理解できたのは、16年の付き合いが伊達でないことを証明していた。
「で、剛のその傷は?」
「ああこれもドガンと…」
「そ、そうなんだ。わかったよ」
自分を襲った男が重田にも危害を加えた、ということらしい。
「ふわあ」
思わず神山は欠伸をもらした。
さっきまで気絶していたというのに眠くなるとは人体とは不思議なものだ。
「ふわああ!」
重田もそれに答えるように欠伸をする。
神山の意識が戻るまで不安でしょうがなかったが、安心して緊張が途切れたようだ。
「剛、もう帰っていいよ」
「そうさせてもらいたいとこだが、まだ裕介の親父さん来てないだろ」
「親父は来ないよ。仕事が忙しいから」
そう言って、神山は無理に微笑んだ。
彼のたった一人の肉親、父は単身赴任で年末年始以外には帰って来ない。
それは小さな頃から変わらず、運動会や学芸会、卒業式、主要な行事には一切出席してくれなかった。
そんな父だ、こんな時もきっと来ないに違いない。
「そうか。じゃあ俺はここで寝る」
「は!?」
有無を言わさず、重田はベッドの柱に身を預けると、神山の抗議の声を子守歌に目を閉じる。
長い1日だった。改めて振り返ると平和な日常が嘘のようだ。
明日はまた平和な日に戻るだろうか、それとも今日のように…そこで面倒になり、重田は考えるのをやめた。
「はあ」
神山は呆れるようにまたため息をついた。
なるべくなら夜は一人にして欲しいものだ。
ふと神山は思い立ち、体を捻らせた。
そこで不思議なことに気づく、たしか重田の話によると、自分はかなりの勢いで壁に打ちつけられたのではなかったか。
ならばなぜ痛みがまったくないのだろう。
あの衝撃で骨の一本や二本、いや数本折れていないわけがない。
急いで頭に巻きつけられた包帯を確認する。
(傷が塞がっている…)
考えられないことだった。生きるか死ぬかの大怪我をしたはずなのに、もう傷が塞がっているとはどういうことなのだろう。
(まさか自分は…)
神山はベッドから立ち上がると、窓の方へと近づいて行った。
窓からさす月の光が段々と近づいてくる。
今宵は満月、殺風景な片田舎の街を満足気に照らしている。
そんな月を掴むように神山は窓の外に手を伸ばした。
自分が不死身であるのを確かめる方法はそれしか思いつかなかった。
それはかなりリスクのある物であったが、なんとなく確信があった。
「裕介ぇ!」


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