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夢の雫
【ファンタジー 恋愛小説】

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夢の雫2-10

「で、こてんぱんにやられたわけだね」
神山は楽しそうに笑みを浮かべながら言った。
いったい誰のために戦ったのか、と食ってかかりそうになったが、
結局あの戦いは自分の自己満足でしかなかったことを思い出し言葉を飲み込んだ。
「神山はともかく、何であなたもそんな回復が早いのよ」
顔に僅かに残る絆創膏を除いて、ぼぼすべての怪我が三日で完治した重田を眺め、ほのかは思わず疑問を漏らす。
「根性だよ根性」
あまり上手くない作り笑いを浮かべながら重田は答えた。
重田もわかっていた。
神柳が手加減をして自分と戦ったことを、そしてそうでなければ今頃よくて植物人間、悪くて火葬場であったことも。
「根性ね。実に体育会系っぽい考えね」
「まあな、そういえば裕介、明日退院だよな」
「うん、そうだね。ようやくまた学校に通えるよ」
ようやく、とはいっても結局たったの一週間弱の入院であった。
「神島はどうするの?」
思い出したかのように神山は聞いた。
ついつい忘れそうになっていたが、ほのかも同じように高校生なのだ。
「大丈夫、転校届はもう出してあるわ」
「お前、学校通うのかよ」
「悪かったわね」
「悪かねぇけど。勉強わからなかったら教えてやるよ」
「あなたに教わるようじゃ人間失格よ」
「俺はこう見えてもな」
たいして自慢にならない、むしろ自分を自分で貶すほどの成績を声を大にして重田は言った。
そんな二人のやり取りを見るのにも飽き、神山は窓の外に目をやった。
夏の日差しのように、強い日差しが冬の町を照らしている。そして窓から吹かれる風には微かに春の匂いがした。
もうすぐ春がくるのだ、つまり冬が終わる。そして退屈な日常も終わったのだ。
「ふああ!」
春の風はまどろみも運んできたらしい。二人には悪いが、神山は寝ることにした。


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