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夢の雫
【ファンタジー 恋愛小説】

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夢の雫2-9

「そう思うのでしたら、謝罪します」
俗に言ういけ好かない奴だと重田は思った。
本人にその気はないのだが、言うこと言うこと鼻にかかる、不幸な人種でもある。
「で、お前の目的は何だ?」
何か言おうとするほのかを遮りながら重田は神柳に聞いた。
彼はその言葉に少し考えるように押し黙ると、ゆっくりと口を開いた。
「一言で言うと協力です」
神山を殺そうとした人間の吐く台詞か、と重田は驚きよりも、むしろ呆れを感じた。
協力とはそんな人間から一番かけ離れた言葉ではないか。
「信じていない、ですか」
「当たり前だ」
「困りましたね」
たいして困って無さそうに神山は言った。
実際困ってなどいない、初めから信頼されるなどと夢にも思っちゃいない。
もし、彼らが自分の思うより強かった場合の協力してもらうための手段はすでに考えてあった。
迷いに迷い、どうにか決断した手段。なるべくならば、避けたかった。いや決断した今でさえ、避けることを願う手段。
「三日前の女の子を覚えていますか?」
「ん、ああ、あのちっこいの?」
何の脈絡のない質問に重田は戸惑ったがどうにか言葉を探し出し、答えた。
「あの子はわたしの大事な家族です」
「で、なんなんだよ」
脈絡のない会話はまだ続く、いったいどこへ向かっていくのか。
まさかこのまま青春ドラマのように人生を語りだすのではないか、と重田は少し不安になった。
「つまりその子を人質にってわけね」
「察しが早いですね」
ほのかの答えにたいした驚きも見せずに神柳は答えた。
ああ、そういうことか。重田も遅れながら理解した。
人質。昔、戦国時代に国と国との外交に用いられた方法である。
簡単に言うと、人質を渡す代わりに同盟を結び、そしてもし同盟を破棄した場合、人質は殺されるというものだ。
古い方法ではあるが、とりあえずの信頼を繕うには悪くない手段であった。
「でも、その子があなたにとってどの程度の存在かわからないわ。少なくともあたしにはね。
取るに足らないものを押し付けられ、その末にわたしらは裏切られ全滅だなんて、絶対嫌だし」
「たしかにそればっかりは証明することはできません。しかし一つわたしがその気になれば
あなた方をいつでも殺せるという事実があります。ならばわかりますね?わたしがそんなに遠回りしてあなた方を殺すメリットがないことが」
しばらくの沈黙。正直、遠まわしにも雑魚と呼ばれたことを反論する気はほのかにはおきなかった。
それに相手との力量の差を測れないほど愚かではない。
「待てよ。それでもお前が裕介を傷つけた事実は変わらないんだぞ」
相手との力量の差を測れぬ、愚か者、利害関係のわからない愚か者がやはりそこにいた。
いや、それは人としては当然なのだろう。しかしその感情はこの状況において非常に邪魔なものでしかなかった。
「すみません」
「前にも言ったよな。俺はダチがやられて、はいそうですかですませるほど、人間できちゃいねぇってよ!」
再び重田は特殊警棒を持ち構えをとった。
神柳は自分は負けたと言った。しかし、それでは気がすまない。
負けとは言っても現実的には神柳は負けていない。
妥協した、少なくとも重田はそう思ったのだった。
「重田、やめなさいよ!せっかく話がまとまりそうだったのに」
「うるさい、黙っとけ」
重田は一喝するともう一度神柳を見据える。
めんどくさいことになった。そんな重田の姿を見た神柳はそう思わずにいられなかった。
しかしそれと同時に、勝算の皆無な相手に自らの危険は省みず、友のため立ち向かう姿に感動もした。
ならばやることは一つだった。
「いいでしょう。あなたの気が晴れるまで相手をしましょう」
「上等!」


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