詩を風にのせて 〜第2話 旅立ち〜-3
「おっ、おい!」
少女は振り返って言った。
「いいわ。教えてあげる」
「本当か?!」
「私はリーシャ・クレセント。リーシャでいいわ」
ユキはリーシャの後を付いて歩く。
「俺の父さんはどのくらい強いんだ?」
「言ったでしょ。世界で一番強いと言われているわ」
「俺、父さんに会いたいんだ」
「だから旅をしているの?」
「旅か…旅をしたいんだけど…」
「話したくないなら話さなくてもいいわ。その代わり貴方とはここでお別れね」
「ちょ、待ってくれよ!長くなるから…」
「すぐそばに公園があるわ。そこでよければ」
「わかったよ」
そうして近くにあった公園でユキはリーシャに昨日の出来事―ゾンビが村を襲ってきたこと―を話した。もちろん妖精エイミのことは話さない。
「聞かなければ良かった」
リーシャの第一声はそれだった。
「なんだよ、それ!お前が言えって言ったんだろ?!」
ユキは声を荒げる。
「言ってないわ。そんなことより今夜はこの街が襲われるかもしれないわね」
「どういうことだよ?」
「今まで貴方のいた村ではゾンビに襲われたことなんてないのでしょう?」
「ああ」
「それなら急に、しかもそんなに大量に現れるなんておかしい。誰かがゾンビを召喚している可能性が高いわね」
「どうすればこの街を救えるんだ?!」
「簡単よ。ゾンビとそれを召喚している人を倒せばいいの」
「それはどうやって倒せばいいんだ?!」
リーシャは溜め息をついた。
「貴方はそれを聞いてどうするの?またゾンビと戦うの?倒せなかったから逃げてきたのでしょう?」
「でも何もしないのはいやなんだ」
「本当にお人好しね」
「教えてくれ」
「貴方一人でどうにかなるものでもないわよ?」
「それでもいいから」
リーシャはユキの目を見た。曇りのない目。そこには強い意志が感じられる。
「倒す方法はある。だけど貴方には無理」
「どうして!」
「さっき腕前を拝見したけれど、あの程度ならこんな短期間では教えてもできない」
「頼む!教えてくれ!」
「貴方の今の実力では無理」
ユキは自分の無力さに苛立った。
「頼むよ…」
今にも消え入りそうな声で言う。
その様子をリーシャはしばらく見ていた。
「そんなに首をつっこみたいの?さっさとこの街から出れば安全に暮らせるのよ?それに命の保障はない」
「俺はできるかぎりのことはやりたいんだ!昨日みたいに何もできないなんていやなんだよ。ましてや襲われるってわかっているのに…」
再びリーシャは溜め息をついた。
「わかったわ」
ユキは、希望に満ちた顔を上げる。
「本当か?!」
「勘違いしないで。貴方に技を教えるわけではない。私が倒す」
そう言ってリーシャは腰に差してあった剣をマントからのぞかせる。
ほっそりとした体型でしかも女なのに、そこにあったのは細い剣ではなくユキと同じ大きさの剣だった。
ユキは思わず後ずさる。