詩を風にのせて 〜第2話 旅立ち〜-2
どこにも逃げ道のない場所へと連れ込まれ、大男たちも2人から大勢に増えていた。あらかじめどこかに待機していたのだろう。
汚いやり方だ。
ユキはそう吐き捨てたかった。
でもどうして少女は大声で助けを呼ばなかったのだろう。いや、今は少女を助けることだけを考えよう。
「さて、嬢ちゃんはかわいいからたっぷりとかわいがってやるよ」
そう言ってナイフを取り出す。
「おとなしくしていれば痛くないぜ。ケケケ」
男たちは獲物を見て満面の笑みを浮かべていた。
そして男が少女に襲いかかる。
今だ!
ユキは剣を抜き、奇襲とも言える形で男たちを切っていく。但し死なないように加減して。
「な、なんだ?!」
少女に襲いかかろうとしていた男たちは次々に悲鳴を上げる男たちのほうを見た。
「き、きさまぁぁ!」
発狂した男たちはユキに襲いかかるがユキのほうが素早いためかわされて攻撃をくらってしまう。
あっという間に男たちは全員倒れていった。
ユキは少女に話しかける。
「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ」
少女は特に怯えている様子もなくはっきりとそう言った。
「ありがとう」
少女が顔を向けてくる。
冗談抜きでかわいいとユキは思った。
身長は160センチで、白いマントを羽織っているため体型はわからないのだがたぶんほっそりとしているだろうことは安易に予想がつく。ダークブラウンの背中まであるストレートの髪は少女に似合っている。
「いや、礼を言われるようなことはしてないから」
ユキは少し照れてしまう。少女の顔があまりにもユキにとってかわいく見えたから。
「別に助けなんかはいらないけれど一応礼を言っておくわ」
「へっ?」
少女の言葉を聞いたときユキは思わず声が裏返ってしまった。
想定外の返事だ。
助けてあげたのになんでそんなふうに言われるんだ?
ユキのそんな心を読むかのように少女ははっきりと言う。
「助けは不要よ。あれくらい自分でなんとかできるから。それより貴方はお人好しね。あの少年にお金を取られたことも知らないで」
「は…?お金?お金ならここに…」
と言ってユキはポケットを探る。
「あれっ?ない!」
「ぶつかったときにあの少年に取られたのよ」
「あの金がないと今夜泊まれないのに…。でもなんで知ってるんだ?」
「あの少年は貴方にも私にもぶつかってきたのだからわかるわ。そのことを少年にほのめかしたら呼び出されたというわけよ」
「どうしようもない奴等だな」
「貴方もね。はい、渡すつもりはなかったけど、会ったから返す」
そう言って少女はお金の入った袋をユキに渡した。
「ありがとう。遅れたけど、俺はユキ・アランファス」
「アランファス…」
少女は口ごもり、少し間を置いて続けた。
「アランファスってもしかしてブレイド・アランファスの…?」
「父さんのことを知ってるのか?!」
「剣士の間で知らない人なんていないわよ。世界で一番強いと言われてる剣士なんだから」
「そ、そうなのか…?」
「そうよ、貴方も剣士なら、しかも自分の父親のことなんだからそれぐらい知っておきなさい」
なんで見ず知らず女にこんな命令口調で言われなきゃならないんだよ。
「もういいかしら」
「あ、待ってくれよ。父さんのことを教えてくれてもいいだろ」
少女はユキを睨み付けた。
「嫌よ。言ったでしょう。剣士なら誰でも知っているのだから暇な人に聞けばいいでしょう?」
「ってことはお前も剣士なのか?!」
「剣士でなくても知ってる人はたくさんいるわよ」
「頼む、教えてくれよ」
「それならまず自分のことを話しなさい。話はそれからよ」
「俺の何を話せっていうんだよ?」
少女は少しの間黙った。
「貴方、本当にブレイド・アランファスの息子?」
「失礼な奴だな。なんで嘘をつかなきゃいけないんだよ」
「世の中には自分の知名度を上げようとそう嘘をつく人も少なくはない。でもブレイドのことを知らないのに嘘はつかないわよね。となると…貴方の父親とブレイドは同姓同名なのかしら」
「俺の父さんは有名な剣士なんだ。そう祖父ちゃんから聞いてる」
少女はユキの目を見た。
揺るぎない真っ直ぐな瞳。
それを見て何を思ったのか、少女は歩き出した。