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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第20話・戦、終わりて…》-1

「え〜、みんなにはいろいろと言いたいことがある。だが、まずはこれだろ」

武慶が机の上にあるコップを手に取った。オレンジ色の水面が揺れる。
クラスの面々も同様にコップを掲げた。

「お疲れっした〜!」
「「「お疲れっした〜♪」」」

《第20話・戦、終わりて…》

◆◇◆◇◆◇◆◇

此所はとあるカラオケ店。そこに集まった総勢40名のクラスメイト達。
只今、体育祭の打ち上げの真っ最中。

「いい?あんまり羽目を外さないようにね」

監督者の君塚教師の言葉。「はぁ〜い」と元気な声が上がる。
だが、誰一人としてその言葉に心の底から従おうと思っている者はいない。
当たり前である。此所で羽目を外さなければ、何処で外すというのか?

「一番、佐々希早紀歌います!」

希早紀がマイクを持つ。周りからは「希早紀〜」と黄色い声…いや、黄ばんだ声がかかる。
希早紀はにこやかに手を振る。
そして、流れるのは今時のハイテンポな曲では無く、何というか…冬の日本海を想像させるような曲。

『まずは私の十八番から♪』

希早紀が歌い出す。曲は某コーヒーCMで宇宙人の方が泣けると言っていたもの。
こぶしも効いていて、はっきり言って上手い。上手過ぎる。

「…有り得ぬな」

楓がポツリと呟いた。

「いろいろと有り得ぬ体育祭であったが、正直これが一番有り得ぬ…」
「…知ってる?希早紀の中学の時の自己紹介。好きな歌手は八○亜紀ですって答えたんだぞ」
「…いくつなのだ、あやつは?」
『しみじみ飲めばぁ、しみじみとぉ〜』

とても気持ち良さそうに歌う希早紀を見ながら二人はグラスに口をつけた。

「まあ、何はともあれ無事に終わって良かったよ」
「そうだな」

ほんの数日前のことなのだが、懐かしいような気分になる。

「疾風、ありがとう」
「ん?」

楓はグラスをテーブルの上に置くと、疾風に向き直った。

「お前の助けが無ければ、私は途中で怖くて走れなかった」

そして、ふっと微笑みを浮かべる。

「本当に疾風は凄いな…」
「いやぁ…そんな…♪」

ハハハ…と笑いながら疾風は赤くなった頬を掻いた。素直に褒められるのはくすぐったいが、悪い気はしない。
頬の熱を冷ますように疾風はグラスに注がれたのコーラを飲んだ。
口の中で爽やかな炭酸の泡が弾ける。


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