刃に心《第20話・戦、終わりて…》-5
「もうちょっと寄ってくれ。入らない」
カメラを構えた武義が言う。壁を背にしているのでこれ以上下がることはできないらしい。
疾風はその距離を詰めた。身体が接触する。
「OK。じゃあ撮るぞ。はい、チーズ」
眩い光が灯った。
「撮れたぞ。黒鵺、見るか?」
無言で首肯。武義からカメラを受け取り、背面の小さな画面を覗き込む。
少し照れたようにはにかむ疾風と無表情な自分が映っていた。
「……ありがとう…」
一見、普段と何等変わりのない表情と声音。
だが、刃梛枷は深淵のような黒瞳でその画面を嬉しそうに見つめていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「結婚式なんてぇえ、だいっきらいだあああああああああ!」
部屋に入り、まず目についたのは机に突っ伏して喚き散らす飲んだくれだった。
正確には飲んだくれと書いて、君塚美樹と読む高校教師である。
疾風と武義は固まり、刃梛枷は一瞥すると近くの椅子に腰掛け、烏龍茶を飲み始めた。
「…何があった?」
「実はね、ユウ君が間違えてチューハイを頼んじゃったの」
誰ともなしに呟いたその言葉を聞いた希早紀が説明しだす。
「飲む訳にはいかないでしょ?でも、勿体ないでしょ?だから、きみちゃん先生が飲んだらどう?ってヒロシ君が言ったの。
そしたら、ユウ君がきみちゃん先生に一気飲みを勧めて、渋々ながらきみちゃん先生が一気飲みしたら、今度はヒロシがもう一杯どうですか?って勧めたの。そしたら…」
「…つまり、間宮兄弟が何杯も飲ませたらこうなったと?」
「そうそう、その通り!」
「「いやー、ついうっかり」」
双子が声を揃えて言う。台詞が棒読みなところまでそっくりである。
「事故だよね」
「うん、事故だね」
「仕方なかったんだよ」
「そう、仕方なかった」
「もうこれは事故と言うよりは自然災害だよね」
「そうだね。むしろバイオハザード、生物災害だね」
「どう見ても、人災だろうがああ!」
武義が吠える。しかし、間宮兄弟はけろりとした顔。全く意に介していない。
「うぅ…彼氏欲しいよぅ……すぅ…」
そんなやり取りの後ろで君塚教師は静かな寝息を立て始めた。
だが、周りはあまり気にしていないようで、現在女子二人がノリノリで歌い、踊っている。
疾風は新たに注いだコーラを机に置いた。
「まあ、これも一興かな」
普段はバラバラだが、まとまる時はきちんとまとまるクラスメイトと担任を見て、疾風は小さく呟いた。