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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第20話・戦、終わりて…》-2

「でも、俺は実際には何にもしてないし、ただ偉そうに後ろから指示を出してただけだから…」
「何を言う。その指示のお陰で私は勝てたのだぞ。そんなに己を卑下するでない。皆は知らずとも、私はお前の凄さを知っておる。
この私が認めておるのだ。お前はそれを否定するのか?」
「そういうわけじゃないんだけど…」

不満そうな楓の視線に苦笑いを浮かべる。
真っ直ぐな楓の言葉は嬉しいが、やはりくすぐったいのだ。

「…ふっ♪まあ良い♪」

そう言うと、楓は疾風との距離を詰めた。肩と肩が触れ合う。さらに楓は首を傾け、疾風に身体を預けた。

「やはり…疾風の側は安心するな」

疾風の頬が再び熱を帯びる。ドキドキと高鳴る心臓。疾風は何も言えず、楓との距離を取ることもできずに黙ってコーラを飲んだ。

『甘い!甘ったるい雰囲気が、疾風君とかえちゃんからしているぞ〜♪』

疾風と楓はビクッとして背筋を正した。
いつの間にか曲は終わっていたようで、マイクを持った希早紀がにやつきながら、近付いてくる。

『そんな甘いスイートなかえちゃんには、ラブソングを歌ってもらいましょ〜♪』
「な!?遠慮する!」
『じゃあ、疾風君と二人でデュエットする?』
「……遠慮するッ!」
『今、一瞬それもいいかなって思ったでしょ?』
「そ、そのような事…」
『じゃあ、私と一緒に歌おう♪』
「どうしたら、そういう結論に至るのだ!?それに私は演歌は歌えぬぞ!」
『大丈夫、大丈夫♪私、演歌好きだけど、それ以外も歌えるから♪』

楓は強引に引きずられてゆき、マイクを渡される。

『ちょ、ちょっと…希早紀…』
『何にする〜?』

最早、聞く耳を持たない希早紀。
疾風は流されるままの楓に向けて心の中で頑張れとエールを送った。

「はーやーてッ♪」

楓がいなくなった途端、空いた場所に千代子が座る。

「疾風は歌わねえの?」
「俺は遠慮しますよ。上手くないですから。そう言う先輩こそ歌ったらどうです?」
「アタシも上手くないからなぁ…アハハ…」

千代子は手に持っていたグラスを置いた。緑のジュースの上に白いアイスが浮かんだ、クリームソーダ。
辺りには、漸く高校生らしいアップテンポの曲が流れ出す。
希早紀はニコニコと楽しそうに、楓はたどたどしいが、一生懸命に歌っている。

「やっぱ、小鳥遊さんは真面目だよね」
「うん。流石、ウチらの勇者って感じ」

そんな声もするが、音を外さないように必死になっている楓には届いていないようだ。

「ふん…何だよ、小鳥遊だけが頑張ったんじゃねえっつうの」

千代子が不機嫌そうに皿に盛られた菓子類に手を伸ばす。もちろん、チョコレート。


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