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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み2 〜Double Mother〜-13

「あらあら」
美弥母に首を叩いて貰い、龍之介は気道を確保した。
「あ〜……その、トイレを借りようとしたら……ドアが開いてて……」
赤い顔をして龍之介が弁解すると、美弥母はにんまりと頷く。
「やっぱりね。まあ、子ども達が知らなければそれでいいんだけど」
どうやらカマをかけられたらしい。
「いやあの」
それでいーのかと、龍之介は心の中でツッコむ。
「お母さん」
さっさと戻ってきた美弥は、車のキーをテーブルの上に置いた。
「龍之介に何を吹き込んでるの?」
美弥母はニヤリと笑う。
「秘密。彼氏、夕べは悪かったわね。秘密にしておいてくれると、助かるわ」
「それはもちろん。誰にも喋りません」
龍之介はしっかり誓った。
「夕べ?」
美弥が不審そうな顔をする。
『秘密』
美弥母と龍之介の声が、見事にハモった。


「ね〜、教えて教えて」
「あのね……」
高崎家に向かう道すがら、強引について来た美弥は龍之介へしつこく尋ねていた。
「さっきの話は何なのよぉ?秘密って何ぃ?」
「喋ったら意味ないでしょーが」
龍之介はツッコむ。
「にしてもなぁ……」
ぶうたれる美弥をいなしながら、龍之介は呟いた。
両親にそういう趣味がありながら、美弥自身はごく普通に肌を合わせる事を好む。
適性があるかどうかちょっぴし試してみたい気もしたが、もしもそれで眠っている資質が目覚めたりしたら、非常にまずい。
龍之介には、ああいう異常な行為に走った美弥を可愛がる趣味はないからだ。
「美弥……変わらないでいて」
美弥の頬が赤く染まる。
「や……何言ってるのよ」
ごく普通に聞けば口説き文句なものだから、美弥が照れるのも無理はない。
だが龍之介にしてみれば、そんな変な趣味に目覚めないで欲しいという切実なお願いなのである。
「いや……周囲の人が引くような趣味だけは持たないで欲しいって」
「???」
美弥は不思議そうな顔をした。
龍之介にしてみれば誓いも虚しくおねだりに負けて充分なヒントを出してしまった形になったので、この件に関してはもう口を開かないと決め込んでしまう。
美弥は黙りこくってしまった龍之介の脇を、ゆっくりと歩いた。
いつもなら何もかもオープン……とまでは言わないが、下手な隠し立てなどせずに説明してくれる龍之介が、何も説明してくれない。
「………………あ。」
不満で唇を尖らせていた美弥は、それに気が付いて声を出す。
美弥は今、龍之介と合わないゆっくりした歩調で歩いていたのだ。
なのに龍之介が美弥を置いて行く訳でもなく、並んで歩いている。
つまり、龍之介は歩調を緩めている訳だ。
龍之介が母との間に交わした秘密を教えてくれなくてぶぅぶぅ文句を言っていた美弥に、怒りもせずに。
いい加減美弥自身がちょっとしつこいかな?と思える程に尋ねまくっているのだから、龍之介は内心で相当いらついているだろうに。
「龍之介……」
それが必要な事ならば、龍之介はきちんと教えてくれる。
そこを失念していた事に、美弥は気が付いた。
「ごめんね」
「ほえっ?」
いきなり謝られて驚いた顔をする龍之介へ、美弥はお詫びの気持ちを籠めて極上の笑みを見せる。
笑みを見て、龍之介は真っ赤になった。
「必要な事なら、ちゃんと教えてくれるもんね。ごめん、もう聞かないから」
「ああ、うん……」
あれ程しつこかった美弥の物分かりが急に良くなったので、龍之介は頬を赤くしたまま妙な顔をする。
――そうこうしているうちに、高崎家が見えて来た。

がちゃっ

龍之介が玄関のドアを開けると、すぐに巴と竜彦が顔を出す。
「龍ちゃん!」
「龍之介!」
龍之介はふっ、と笑みを浮かべた。
「ただいま」


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