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伊藤美弥の悩み 〜受難〜
【学園物 官能小説】

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恋人達の悩み2 〜Double Mother〜-10

壊せば、美弥を永遠に傍へ置いておける。
黒い欲望が、龍之介を支配した。
食事だろうが用便だろうが、美弥の物なら全く気にならないだろう。
毎日美弥の体の世話をし、眺めて暮らす事ができるのなら……それはどれ程に、甘美な日々となる事か。
「……!!」
黒い欲望を追い払うように、龍之介は首を振る。
その甘美さは、木偶人形としての美弥と引き換えだ。
壊されて、何の反応もしない美弥と。
二度と自分の傍で笑う事も腕の中で熱く甘く狂い鳴く事もない美弥。
そんなのは、嫌だ。
龍之介は生きて笑って泣いて怒って傍にいてくれている『伊藤美弥』が欲しいのであって、ただ最低限の生命活動をしている女の子の肉体が欲しいのではない。
狂おしい想いに、龍之介は泣きそうになる。
「ごめ……少し、待って」
龍之介は、美弥の肩に顔を伏せた。
「……龍之介……」
美弥はぽんぽんと、龍之介の背中を優しく叩く。
最近ますます背が伸び、少し体を屈めないとこんな真似ができないようになって来ていた。
それに合わせて顔立ちから少年らしい甘さが抜け、大人びて来ている。
「…………やっぱり、うちに泊まって」
何やらの葛藤があってダウン状態に入った事を敏感に察した美弥は、優しく龍之介を支えながら囁いた。
龍之介は、美弥の前では強さと脆さを見せてくれる。
脆さが現れている今、家に帰るまでの時間でさえも、龍之介を一人にするのは躊躇われた。
「親に文句は言わせないから……」


家に入った二人を、美弥母が出迎えた。
「お帰りなさ……あら」
美弥の後ろから申し訳なさそうな顔をした龍之介が入って来たので、美弥母は目を丸くする。
「どうしたの?」
「部屋に泊めるから」
簡潔に言うと、美弥は龍之介を促した。
「……お風呂沸いてるから一緒に入りなさい。上がったら、何かあったかいの出してあげるわ」
龍之介の状態を一瞬で読み取った美弥母は、娘をそう促す。
「…………え?」
反対されるか文句を言われるかと思っていた美弥は虚を突かれて、間抜けな声を出した。
「体の関係まで進んでるなら、今さら恥ずかしがる必要もないでしょ。貴之のパジャマ貸してあげるから、ゆっくり入りなさい」
物分かりの良過ぎる母親である。
だがその言葉を無下に断る必要性はどこにもなく、二人は高崎家に連絡を入れてから仲良く入浴する事になった。
「美弥……」
「ん……?」
ボディソープを泡立てたスポンジで龍之介の体を流してやりながら、美弥は生返事をする。
「その……ごめん」
うまい言葉が見付からず、龍之介はただ謝罪した。
「何が?」
美弥は手を止め、龍之介の頬にキスを落とす。
「龍之介……まだ分かってないね」
腕を前に回し、美弥は龍之介を抱き締める。
「私はいつでも龍之介の支えになるよ」
いつかも囁いた言葉を繰り返し、美弥は再びキスを落とした。
「いつでも」
「美弥……」
龍之介は首を捻り、美弥を見る。
軽く唇を触れ合わせると、龍之介は微笑んだ。
「……ありがとう」
どうやら脆さが引っ込み、強さが顔を出して来たようである。
安堵して、美弥は微笑んだ。
「あ。」
龍之介の手がスポンジを奪い取り、美弥の体を洗い始める。
「やっ……ん……」
恥じらう美弥の体を隅々まで洗うと、ボディソープでぬめる体を引き寄せて、龍之介は美弥と口付けを交わした。
「ん……ん……」
キス自体は、ねっとり舌を絡め合うような濃厚な物ではない。
ただ、重ねているだけだ。
そもそも先程は後悔するまでに暴走してしまったのだから、反省しきっている龍之介に美弥を抱く元気はないのである。
それでも美弥は体の力が抜けてしまい、龍之介に体を預けた。
龍之介はボディソープを流し、美弥を抱き上げて湯舟へ浸かる。
「ん……りゅう……」
二人は体を密着させ、ひたすらに唇を重ね合った。
体が湯でふやけ、唇が腫れそうになるまで触れ合う頃になって、龍之介はようやく強さを取り戻す。
「美弥……」
込み上げて来た恥ずかしさを美弥への感謝に変えて、龍之介は格別に優しい口付けを送った。


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