記憶のきみ―目の前のきみ-1
『………』
意を決して扉を開ける。
今度は、ちゃんと悦乃はいてくれた。
『………よう』
「……瞬くん」
『もう落ち着いたか?』
「うん」
『廊下でお母さんに会った。またすごくお礼言われたよ』
瞬が苦笑いすると悦乃も笑った。
「……私が倒れるときは、いつも瞬くんがいるね」
『……そうだな』
ベッドに横になっている悦乃の頭を撫でる。
「……どうしたの?」
瞬はゆっくりと椅子に腰掛けて言う。
『…………さっきお前が倒れて、どうしようかと思ったとき、とっさにすべてを思い出した』
「………」
『……食うか?』
「……シュークリーム」
瞬は、吊ってないほうの腕で持っていた袋からシュークリームを悦乃に差し出した。
あのときのように、二人でベッドに並んでシュークリームを食べながら、会話は続いた。
『………ごめん』
「え?」
『約束、守れなくて』
「……しょうがないよ」
『俺はな、あの時、悦乃のことが好きだった』
「……」
『でも俺達は、なにも知らない小学生だっから。どうすることもできなかった』
「………うん」
『ってか、退院するのはえーよ』
「え?」
『一月後くらいに行ったら、お前もう退院してた』
「……来てくれたんだ」
悦乃の顔が明るくなる。
『もっと入院してたらまた会えたのにな』
「えー…瞬くんが早く治せって言ったんじゃん」
『あ……』
「ふふ」
『はは』
和やかな空気が流れる。
「大丈夫?」
『あ、ああ、幸い利き腕と逆の骨折だからな』
「そうじゃなくて…」
悦乃はうつむいている。
『………?』
「私を担いで…重かったでしょ?」
『あー、なんだ、そんなことかよ』
「………」
『……秘密』
俺はしてやったり、と笑う。
「うー……」
『……なんだか昔に戻ったみたいだな』
「そう?昔の瞬くんはずっとだんまりだったもん」
『………そうか?』
「そうだよー」
『……』
「私は今の瞬くんがいいけどね」
『………そっか』
「うん」
悦乃はニコッと笑った。
その笑顔を見て、ふと思い出した。
『………あのさ、悦乃、倒れる前…』
「え?」
悦乃はしばらく考え込む。
そしてある一言を思い出した。
“私は……瞬くんが好きです”