刃に心《第19話・戦、始まりて…決戦編》-6
「くっ…あの…あの写真さえ無ければ…」
「言うな!言うんじゃない!辛くなるだけだ!」
「だが、あの写真が無ければ、限定商品の列に三日前から並ぶこともなかった!」
「そうだ!突然、ケーキが食べたくなったからって、早朝から、超高級スイーツを、自腹で、買いに行かされることもなかった!」
「うっ…もう嫌だ…普通の生活に戻りたい…」
顔を隠す覆面の下から悲壮な声が漏れる。
「静まれ!」
リーダーらしき男が部下を一喝する。部下達はビクッとして黙り込む。
「…失礼をした」
「すみません…愚妹には後でキツく言い聞かせておきますので」
「そうしてくれると、非常に有り難い…」
「いえいえ…何とお詫びしたら良いのか…」
「いやいや…兄上殿のせいではない。元はと言えば、付け入る隙を与えてしまった我々にも非はある…」
互いに腰を折って、深々と頭を下げる。
「ですが!」
「だが!」
武器を構え直し、その切っ先を相手に向ける。
「「それとこれとは話は別!!」」
◆◇◆◇◆◇◆◇
教室の中が静かになった。床には暗器が散らばり、その上に折り重なるようにして4人の忍者が倒れている。
「すみません…」
同情の念から疾風は思わず呟いた。
「あら、もう終わっちゃったの?」
楽天的な声とともにシュッタッと教室に霞が降り立った。
「霞、その人達の弱みを返してやりなさい」
さして驚く様子も無く、疾風は諭すような口調で霞に話しかけた。
「ヤダ」
即答。
「…霞」
「ヤ〜ダ♪」
やはり即答。しかも、満面の笑みで。
「そんな使い勝手のいい駒、みすみす捨てるわけないじゃない♪」
「…本当にお前には悪役がよく似合うよ」
「私にとって極上の賛辞をありがとう♪」
疾風は苦無を逆手に構え、匕首の切っ先を霞へ向けた。
「久々の兄妹喧嘩だな」
「まあね。ちょくちょく小競り合いはあったけど、此所まで本格的なのは久しぶりよね」
「それに」
「お互い、いろいろと言いたいこともあるみたいだし」
霞が腕を振った。学校指定ジャージの袖口から苦無が落ちてくる。
シュンッ。
そんな擬音を残しながら、二つの影が教室内を縦横無尽に駆け回る。
時折、小さな火花がきらめき、金属音が響く。