刃に心《第19話・戦、始まりて…決戦編》-4
「あの…疾風、アタシ…お前が…」
『さあ、勝負はこれで判らなくなったぞ!』
千代子の想いを込めた声は司会の声によってかき消され、疾風には届かなかった。
『続いての競技は障害物競争だあ!』
千代子は近くにあった拳大の石を握ると大きく振りかぶった。
『尚、障害物設置の為、生徒の皆さんは一度校舎に入ってくださ…』
───ゴンッ!!
『アベシッ!?』
司会のこめかみに千代子の投げた豪速球が当たった。
「ちょっと!チョコ先輩、いきなり何を!?」
「うるせぇ!!折角、いい感じになってて、もうちょっとだったのに…
これもラブコメの宿命なのか!そうなのか!
そんな運命、アタシは断じて認めねえ!ウガ───!!!」
「チョコ先輩!?」
「うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ───!!」
「と、とにかく何があったか知りませんが、とにかく校舎の中へ!!」
近くにあった物を手当たり次第に投げようとする千代子を校舎の中へと引っ張り込んだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
教室の中は気合いと熱気で満ちていた。
椅子や机は教室後方にまとめられている。
「この障害物競争が最後だ!これに勝てば優勝!!絶対に勝つぞ!」
武慶の声に『おおー!』という声が呼応する。
「絶対に勝つぞ!」
「「おおー!」」
「諭吉先生は俺達の物だああ!」
「「うおおお!」」
「天は人の上にー!」
「「人を作らずー!」」
「天は人の下にー!」
「「人を作らずー!」」
「学問のー!」
「「すすめー!」」
教室内の変なテンションは最高潮に達している。
「意味判んないぞ」
呆れたように疾風は呟いた。その隣りで楓はかなり不機嫌そうにしている。
「楓、どうしたんだ?」
「…別に」
「いや…すごくテンション低いんだけど」
「…それは、私を守るなどと言ったくせに、裏作業があるなどと言って、私の側におらなんだ何処かの誰かさんが原因だ」
楓はじと目で睨み付ける。疾風は顔を引きつらせ、苦笑いでそれを受け流そうとする。
「つまり、かえちゃんは疾風君が側にいなくてさびし…アギャッ!」
いつの間にか、近くに来ていた希早紀の額に手刀が決まった。