刃に心《第18話・戦、始まりて…激闘編》-7
「紙を見せて」
紙を差し出す。二つ折りにされていた為、疾風には何と書かれていたのか判らなかった。
「ふ〜ん…なるほどね」
紙を受け取った運営委員は疾風の身体に値踏みするような視線を走らせる。
「本当にこの人?」
そう聞かれて、刃梛枷は何も言わず僅かに首を振った。
「判ったわ、行っていいよ。二人でゴールしてね」
そう言われた刃梛枷は疾風の手を握ってゴールに向かった。
「へぇ〜」
運営委員は疾風と刃梛枷を一瞥すると、紙を机の上に落とした。
パサリと二つ折りの紙が開いた。
『愛しき人』
紙にはそう書かれていた。
「次。何々、猪木のモノマネができる人か…はい、見せて」
「元気があれば、何でもできる。元気ですかー!?」
「似てない。別の奴連れといで」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「いたた…」
玉入れを終えた男子が、身体のそこら中に痣を作って戻って来た。
玉入れで痣ができる理由は簡単。時折、相手が籠ではなく、身体目掛けて玉を飛ばすから。
玉はある程度重量がある為、当たると結構痛い。
こちらも同じ事をしているのだから、言えた義理では無いのだが…
「疾風、大丈夫か?」
疾風の腕にできた痣に楓が冷却剤を当てる。
「お前ならあの程度の玉なら避けれただろう」
「まあ、あんまり当たらないで避けてると怪しまれるから」
「お前は本当に要領が悪いな」
「あはは…」
「ほら、少しは霞を見習って…」
楓と疾風はグランドの方を向いた。
そこには、あはは♪と満面の笑みを浮かべて相手に玉をぶつけている霞の姿があった。
しかも、全弾顔狙い。
「い、いかん!相手は化け物だ…全軍、目標を籠へ…へぶッ!!」
「あーはっはははは♪無駄無駄無駄ぁ♪私に勝てるとでも思ってるのかしらあ?」
「だ、だめです!これ以上持ちませ…へぎゅ!」
「ぜ、全軍てっ…げふッ!」
「あーはっははははは!!!逃がすものかああ♪」
次々に玉をぶつけられて沈黙していく。
屍がグランドを埋め尽くした頃、時間が来て、勝敗が決した。
勝者がどちらかなど、言うまでも無い。
「…霞は見習わぬ方が良いな…」
「あの、サディストめ…」
疾風と楓は呆れたように霞の高笑いを聞いていた。
午前の種目はこれが最後だった。