刃に心《第17話・戦、始まりて…準備編》-3
「…直に判るよ」
疾風はただそう言うだけだった。
「かえちゃんはどれがいい?」
「私はどれでも…」
希早紀に聞かれ、楓は種目表に目を向けた。
「じゃあ、これ」
指差したのは玉入れ。
「あ〜、ダメダメ」
「何故だ?」
「女の子は顔が命だから。玉入れは男の子がやることになってるの」
「………玉入れってそれほど危険な種目では…」
「そんな一般常識は棄てた方がいいよ」
希早紀の口調は普段の間延びしたものとは異なり、冷めたものだった。
「は、疾風…何か皆の様子がおかしいぞ!」
「仕方ないよ…」
「だって…シイタケは一般常識のあるお前の良き理解者キャラだったし、希早紀はいつも明るい笑顔キャラだったではないか!」
疾風は静かに首を横に振った。
達観した、何処か悟りを開いた者にも通ずる仕草だった。
「二人三脚は間宮兄弟。借り物競争は…黒鵺、やってくれるか?」
テキパキと指示を下す武慶にそう言われ、刃梛枷は無言で頷いた。
「楓はどうする?」
「そうだな…他には…」
楓は再度、種目表を見た。
二人三脚は双子ならではの息の合った動きが期待できるヒロシとユウ。
綱引きには、相撲部やラグビー部などを配置。
通常リレーには陸上部やサッカー部。
普段から苦無を投げている為か、疾風は玉入れに配属されていた。
「これだな」
誰の名前も書かれていない種目を指差す。
「し、障害物競争!」
その途端、クラスメイト達の顔色が変わり、どよめきが起こる。
「転校してきたから知らなかったとはいえ…あ、あの魔の種目に立候補するとは…」
「勇者だ…勇者様が現れなさった」
「小鳥遊さん…かっこいい」
辺りからはそんな言葉が飛び交う。
「な、何なのだ!?」
不穏な空気に気付いた楓が声を荒げる。
「これしか残っておらぬから、これにしたのだぞ!!」
「かえちゃん…」
ゆらりと希早紀が楓に近付き、その両肩を掴む。
「私…かえちゃんのこと…絶対に忘れないから…」
ズビッと鼻を啜り上げる。
「な、何を不吉な!疾風、これは一体…」
「障害物競争…体育祭史上、最も過酷なレース…それと同時に毎年、最も多くの怪我人を出す死の競技でもあり、それに出場する者達は英雄と評される…」
疾風の代わりに武慶が極めて冷静に説明をする。