School days 03+α-3
翌日の昼休み。再び竹島がやってきた。
「今日の放課後は空いてない?分からないとこあってさ、青島さん頭いいから教えてもらいたいんだ」
「え…」
宴がつまる。
断りたい。
でも何て言うの?
言えないんだもん…
約束したんだもん…
「青島さん?」
どうしたの、と竹島が宴の肩に手を置いて彼女を覗き込んだ、時だった。
「やめてくれる?」
声と共に二人の間に割って入る影。その人物を見上げ、竹島はぎょっとした。
「困ってんじゃん」
賢輔が不機嫌そうに言う。その後ろでほうっと宴が息を吐いた。
「な、なんだよお前…」
たじたじになりながらも言い返す竹島。
「最近いい人になったとか聞くけど、それもいつまで続くか分からない奴なんかに関係ない話だ。あっち行けよ」
賢輔はムッとして言い返そうとする。
「関係なくない!」
それを遮って突然宴が叫んだ。目を丸くする竹島。いや、彼だけではない。賢輔も驚いた様子で宴を見つめる。教室も静かだ。
「賢輔は元から優しいんだよ。作ってるんじゃない。勝手なこと言わないで、私の彼氏に…」
カシャーン!
教室で誰かがふでばこを落とした。誰かは牛乳に噎せつき、誰かは椅子から落ち、誰かは力が入りすぎて手に持っていた鉛筆を折った。
「なんだ…って…?」
竹島が「は?」という顔で聞く。
「だからね、」
「俺たち付き合ってんの」
交互に話す宴と賢輔。竹島は信じられないという様に数回頭を振って、数歩後ずさりしてから一目散に走り去っていった。
「ごめん、隠すって約束したのに」
竹島の背を見つめながら、ぽつりと賢輔が言う。
「ううん、いいの。助けてくれてありがと…」
教室を振り向く二人。揃って申し訳ない表情を浮かべる。
クラスメートは皆、まるで停止ボタンが押されたかの様に二人を見つめたままピクリとも動かない。
「あ…の…」
沈黙に耐えられなくなった宴が口を開く。
「ごめんなさ…」
「なんだ、やっぱりそうだったの」
謝りの言葉を遮って、夕音がけろっとした顔で言った。
「…え…夕音ちゃ…」
「だって近藤くんの宴ちゃん見る目、誰見る時よりも優しいんだもん」
「え?」
今度は賢輔が戸惑う番だ。
「ほんとですよ。みんな薄々気付いてたんですから」
白石がやれやれと首を振る。
「ただ、公衆の面前で告白されたのには驚いたけど」
松岡未紅が肩をすくめた。
そしてクラスみんながガヤガヤと元の作業に戻っていく。
「え…なに…?どゆこと?」
宴はポカンとそんな仲間たちを見つめる。
「なんか、バレてたらしいな…」
はは、と苦笑する賢輔。
「この場所、無くさないで済んだの…?」
「ああ…ほんと最高だよ、うちのクラスは…」
賢輔がかがみ込む。
ちゅっ
軽い口付けが宴に贈られた。微笑む二人。
「おい、こら…」
目撃していたクラスの男子が言う。
「この馬鹿賢輔っ!彼女いない俺らにあてつけか?」
「そんな奴はこうしてやるーっ!」
数人の男子が賢輔をくすぐった。
「うわっこら、やめろっ!くすぐってぇよ、うわはははっ!」
そんなじゃれ合いを微笑ましげに見つめる宴。
「よかったね、宴ちゃん」
夕音が笑いかける。
「夕音ちゃん…ありがと…ちゃんと言ってなくてごめんね」
「ううん。言いにくいってことくらい分かってたから」
宴は教室を見回し、思った。
神様、前に言ったこと取り消します。
私、このクラスでよかった。
纏まりのないクラスなんかじゃない。
本当に、心からそう思います…―
「わぁっ、雪だ!」
突然一人が叫んだ。みんなはベランダへ飛び出す。
一列に並んで空を見上げる3のEを、白い白い雪が、包み込むようにして降っていた。
「3のEばんざーい!」
賢輔が両手を上げ、叫ぶ。
「ばんざーい!!」
数人の男子がそれに続いた。
顔を見合わせ、女子も参加する。
「3のEばんざーい!!」
白く染まりゆく景色の中、その声はいつまでもいつまでも響いていた。
高らかに、どこまでも…―
〜Fin