刃に心《第16話・肝試し度胸試し》-8
「話がある!」
鋭い楓の視線を真っ向から受け止めると、刃梛枷は頷き、小さな声で
「……判った…」
と呟いた。
「では、私達は先に戻ってますね♪行きましょうか、皆さん♪」
そう促した朧は男子と霞を連れて出口に向かっていった。
「疾風も先に行っててくれ」
「…判ったけど、大丈夫?」
「無論」
力強く答える。
恐怖心はいろんな感情に追いやられているようだ。
それを聞き、疾風は朧達の後を追った。
疾風が行ったのを確認すると、楓は刃梛枷に向き直った。
今、この場にいるのは楓と千代子と刃梛枷、そして希早紀。
「単刀直入に聞きたい。お前は…疾風のことが好きなのか?」
少しの間、何かを考えるように黙り込む。
「……それは私があの人に恋愛感情を向けているのか、ということ…?」
「ああ」
刃梛枷はまた黙り込んだ。言葉を探し、自分の感情を確かめる。
そして…
「……そう…」
刃梛枷は小さく頷いた。
「……実際に心拍数の増加、顔面の紅潮、体温の上昇などの諸症状が見受けられる………これは、一般的に人が特定の人物に恋愛感情を抱いたときに起こるものだと聞いている…」
刃梛枷は尚も淡々と続ける。
「……私はあの人の隣りで安らぎを感じている………私はあの人の側にいたい………私は貴女達に負けたくない………だから…」
瞳に光が宿る。
「私はあの人が好き。忍足疾風のことが好き」
小さな細い声だった。
だが、同時に力強い声でもあった。
「判った」
それを聞き届けた楓が口を開く。
「だが、私もお前と同じだ。負けたくはない。
私も疾風が好きだ」
妬みや嫉みなどの負の響きはなく、静謐な声音だった。
「あ、アタシだって!アタシだって…疾風が好き」
それに釣られるように千代子が慌てて声を上げる。
そのまま、三人は黙り込んだ。風にざわめきだけが鼓膜を震わせる。
「…はい!よく判りました!」
その静かな空気に耐え兼ねたのか、希早紀がパンッと手を叩いた。