刃に心《第16話・肝試し度胸試し》-3
「では、第四班スタート♪」
「ほら、行こう」
疾風が手を差し出した。楓はそれを両手でしっかりと握る。
その光景を見ていた刃梛枷が小さく眉をピクッと動かした。
辺りは暗く、ほとんど判らないような小さな仕草だった為、誰もそのことに気付いていない。
もしかすると、刃梛枷本人でさえも気付いていないのかもしれない。
刃梛枷は寄り添いながら暗闇に消えていく二人の背中を静かに見つめていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「では、最後…」
───にぎゃああああ!!!
突然、辺りに絹を裂くような悲鳴が流れた。
残った者達はギョッとして暗い入口に目を向ける。
しばらくして、疾風が苦笑いを浮かべながら暗闇から姿を現した。
その背にはぐったりとした様子の楓がふにゃふにゃと目を回していた。
「何か…寝てた猫の尻尾を踏んだみたいで…それに楓が驚いてしまいまして…」
先程の悲鳴の大部分は楓ではなく、野良猫のものだったようだ。
「リタイアということにしてください」
疾風は近くにあったベンチの一つに楓をソッと寝かせた。
それを見ていた朧の顔に不吉な笑みが浮かぶ。
「彼方さん♪ちょっといいですか?」
朧は笑顔で彼方を手招いた。
その姿はまるで黄泉路へ生者を誘う魔性のものの如く…
だが、彼方はそれに気付くことなく、嬉しそうに駆け寄っていった。
「何ですか?どうしたんですか?」
「もう少し顔をこちらへ近付けて下さい♪」
彼方はニヤけながら朧に顔を近付けていった。
「ふふ♪えいッ♪」
プスッ。
朧は瞬時に針を取り出すと彼方の額に突き刺す。
彼方はふらふらしながらその場にへたりこんで安らかな寝息をたて始めた。
「あらあら♪こんな所で寝たら風邪ひいちゃいますよ♪」
そして、針を抜くと何事もなかったかのように振る舞う。
「彼方どうしたんだ?」
「寝ちゃったみたいです♪かなり、はしゃいでいましたからねぇ♪」
「………突然?」
「はい、突然♪それはもうまるで事切れたかのように♪」
笑顔のままの朧を見て、疾風は、はぁ…と諦めたように嘆息した。
「というわけで、疾風さん、刃梛枷さん。お二人で行かれては如何です?」
「…どういうわけで?」
思わず疾風は聞き返した。すると、刃梛枷は疾風の左手にソッと自らの右手を重ねる。