刃に心《第15話・奉り祭り》-9
「それに、何か…落ち込んでたけど大丈夫?」
「それは…」
自分がいないことに気付いても、そこには気付いてくれない。
少し怒りが生まれたが、もうどうでも良かった。
疾風は自分も見てくれている…
そう思うとわだかまりはもう無かった。
「もう良いのだ」
「そう?」
「…心配かけて、すまなかった…」
「別に大丈夫だよ」
疾風は微笑んだ。
胸が静かに高鳴りだす。
疾風は携帯を取りだし、電話をかけ始めた。
「……あ、月路先輩。はい…無事に保護しましたよ。…はい…判りました。今から向かいます」
「保護って、まるで迷子ではないか…」
通話を終えた疾風に不満そうな視線を向ける。
「実際、迷子だろ」
反論できずに楓は、むぅ、と口を閉ざした。
「じゃあ、みんなのところ行こう」
「…ああ」
そう言うと、楓は歩きだそうとした疾風の手を取り、握った。
「か、楓…」
びっくりしたように疾風が赤面する。
「…もう…離〈はぐ〉れたくないのだ…」
より強く、解けないよう指を絡める。
疾風は黙って、その手を握り返した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ、来た!」
希早紀が声を上げる。
周りは神社から少し歩いた所にある辺鄙な竹藪。
「あ〜♪手なんか繋いでラブラブだぁ♪」
そう指摘され、握った手を解こうとした。
けれど、キュッと楓がそれを止める。
はぐれて、少し不安だったのかな。
疾風はそう思って、手を放すのを諦めた。
「…離れろよ」
すると、つかつかと歩み寄って来た千代子が言う。
「…嫌です」
「離れろ」
「嫌です」
「は・な・れ・ろ!」
「い・や・で・す!」
辺りに不穏な雰囲気が蔓延する。
離れようとしない楓を一瞥すると、千代子は疾風の空いている方の腕にしがみつく。