刃に心《第15話・奉り祭り》-7
「千代子、どうした?」
人込みが割れ、70歳程の男が歩いてくる。
肩幅は広く、年季の入ったハッピと下駄がよく似合っている。
「爺ちゃん!」
「喧嘩か。収まったみてぇだな」
「組長、どうしやす?」
傍らの男がのびている男を指し示した。
「社務所にでも運んどけ」
威厳のある深く重々しい声。
「ん?友達か?」
「どうも」
疾風がぺこりと頭を下げた。
「お前さんは…」
「お久し振りです」
「あの時は千代子が世話になった」
「いえ、こちらこそ。千代子先輩にはいつも助けられてます」
千代子は顔を紅くして俯いた。あの時の記憶が甦り、胸が高鳴る。
「それじゃあ、失礼します」
疾風達はそう言って立ち去っていった。
その後ろ姿を千代子は羨ましそうに眺めている。
「千代子、着替えてこい」
功刀組組長───『功刀千秋郎(クヌギセンジュウロウ)』は傍らの孫娘に向かって言った。
「えっ!?」
「浴衣持ってきてんだろ」
「し、知ってたのかよ?」
「ばか野郎、何年お前の爺ちゃんやってると思ってんだ」
「で、でも…祭りが…」
「祭りは楽しむもんだ。俺達はこれが楽しい。だがな、お前はあっちの方が楽しめるだろ。
それにお前がいなくとも俺達だけで祭りなんぞ十分回せらぁ」
「爺ちゃん…」
「ほら、早く支度しろ。置いてかれるぞ」
「うん!」
千代子は嬉しそうに本殿に走っていった。
本殿の一室でハッピから薄いピンクの浴衣に着替えた千代子は靴を履き替え、外に出た。
左右には組の者がズラリと中腰で膝に手を置き、並んでいる。
『お嬢!いってらっしゃいませ!ご武運をお祈りしてやす!』
ドスの効いた低い声が響く。
「や、やめろよな〜、こういうの…」
恥ずかしそうに千代子は言いながら、その列の真ん中を通り抜け、千代子は疾風達の元へ向かった。