刃に心《第15話・奉り祭り》-2
「夏休みにとつにゅーしましたぁ♪つきましては、今週末にお祭りがあるから皆さんのご予定を聞きたいと思います♪」
「はい!俺!何も無いです!」
「俺も大丈夫。楓は?」
「ああ。大丈夫だ」
「しぃ君は?」
「大丈夫だよ」
「「僕らも」」
「……私も…」
「じゃあ、みんな大丈夫ってことだね♪詳しくは追って連絡するね。んふふ〜♪タコ焼き〜♪チョコバナナ〜♪綿菓子に林檎飴〜♪楽しみだなぁ♪」
希早紀がうっとりと目を細める。
「疾風君、疾風君。ちょっとこちらへ♪」
彼方が笑顔を浮かべながら疾風を呼ぶ。
疾風は少し嫌そうに彼方に近付く。
「…何?」
「へっへっへ…♪疾風君、君は月路先輩と仲が良かったよね…?」
「…そうだけど、何が言いたいんだ?」
「もう♪此所まで言えば判るだろ♪先輩にもお誘いをかけてよ♪」
疾風は深く重い溜め息を吐いた。
嫌だと言うのは簡単だ。だが、この男はそんなことで諦めるほど簡単な男では無い。
「判ったよ…霞経由で聞いてやるよ…」
「さっすがぁ!話が判るね君は♪」
はぁ…ともう一度溜め息を吐き、携帯を取り出した。
素早くボタンを押して内容を書き、送信する。
返事はすぐに帰ってきた。
「どうだった?」
「……了解ってさ」
ヨッシャアと雄叫びをあげる彼方を尻目に疾風は携帯を静かに閉じた。
送られてきたメールは2通。一つは霞から、もう一つは朧からだった。
(何で先輩が俺のアドレスを知ってるんだ…?)
疾風と霞は同じ携帯会社製なのでアドレスは教えていない。
それに対し、以前に見た朧の携帯は別の会社の物。
アドレスは一部の者にしか教えていない。
疾風は背筋にうっすらと寒気を感じた。
(と、とにかく…これは内密にせねば…)
今の時代、個人情報は高値で売れる。
しかも、それが三桁を超えるファンを有す朧のものならば、如何なる手段を持ってしても手に入れようとする不逞の輩がいるだろう。
というか、目の前に。
疾風は情報の漏洩を防ぐために、携帯をポケットの中に戻そうとした。
その時、ある事を思いだし、再びメールを打ち出す。
「疾風、誰に送っておるのだ?」
「チョコ先輩に」
何気なく言った一言が楓の嫉妬に火を付ける。
「どうしたんだ?」
あからさまに不機嫌になった楓に不思議そうに疾風は問い掛けた。
すると楓はぷいっと顔を背ける。
「ふん!疾風など知らぬ!」
キョトンとする疾風の先を楓が大股で歩いていく。
何故、怒っているのだろう?先輩の予定を聞こうとしただけなのに。
そう思いつつ、メールを打つのを再開する。
送信ボタンを押して、携帯をポケットに戻す。
しばらくすると、携帯が震え出す。
『悪い!(>人<)今週末はちょっと忙しいんだ』
そんな文章を読むと、返事を出す。
『そうですか…残念です…』
『来週なら空いてるから、どっか遊びに行こうぜ!』
『判りました。それじゃ、また』
パタンと携帯を閉じる。
顔を上げ、前を見れば、仲間達はかなり先の方を歩いている。
疾風は小走りで彼らの元に向かった。